第18話 バスタイム🫧降霊術
八重、トキコ、雪姫の三人は、連れだって近所の銭湯「さくら湯」へ出かけた。
低血圧で目覚めが悪い雪姫は、トキコに手を引かれ、言われるままに歩み、脱衣所でそっと服を脱がされ、なすがままとなっている。
さくら湯のタイルが高い位置にある小窓から差し込む光で輝いていた。
客はまだおらず貸し切り状態だ。
トキコは雪姫の髪を洗ってやり、背中を流してやり、甲斐甲斐しく世話してやっている。
髪が湯に浸からないよう、タオルで巻いてやり、そして雪姫は湯につけられた。
一番風呂の熱々のお湯で、雪姫はやっと頭がぐんと覚醒していくのを感じていた。
一方、カラスの行水な八重はとっとと湯からあがり、マッサージ機を楽しみながらコーヒー牛乳をこぼしながら飲んでいた。
しばらくすると、その横の洗面台に風呂上がりのトキコと雪姫が陣取る。
雪姫を洗面台の前に座らせ、トキコはメイクアップアーティストのように手際よく雪姫の顔に化粧水や美容液をのばし、ヘアオイルを毛先に染みこませ、そして自前の高級ヘアドライヤーで丁寧に髪を乾かしはじめた。
ご機嫌なトキコの鼻歌が聞こえ始める。
(まるで人形遊びだな、こりゃ……)
八重はその様子を気の毒そうに眺めながらマッサージを楽しんでいる。
「……いい匂い」
自分の毛先からふわりと漂う香りに、雪姫は思わず呟いた。
「いいでしょー。このヘアオイル、茶花の香りなんだよ。雪姫ちゃんは素材が良いんだから、もっと自分を甘やかしてごらん。お姫様みたいになれるんだから」
トキコは、雪姫の耳元で囁くように語り、細く長い指でそっと彼女の髪を撫でた。
雪姫はホゥっと息をつき、「お姫様かあ」と小さく呟く。
その様子を見ていた八重は、こぼれたコーヒー牛乳でびちゃびちゃになった胸元を、濡れたタオルで拭きながら、「そういうとこやぞぉー!」と怒鳴った。
煩い八重は無視して、トキコは雪姫の髪をいつものきつきつなみつあみではなく、少し手の込んだ編み込みをゆるく編んで、今どきっぽく仕上げてやった。
まるで魔法みたいだと、トキコの指先を見つめながら雪姫は思った。
「雪姫ちゃん、かわいいよ」
鏡越しにトキコが微笑むと、雪姫は頬を赤らめて俯いてしまった。
「ありがとうございます」が、上手に言えなかった。
* * *
銭湯から戻った後、三人は少し一息つき、トキコの提案でコックリさんの儀式に挑む準備を始めた。
教室の机をくっつけ、ひらがな50音と神社の鳥居マークを紙に書き、その左右に「はい」「いいえ」と記した紙を並べる。
鳥居の上に、ピカリと光る10円玉をそっと置き、三人は輪になってその周りに座った。
みんなの人差し指を10円玉にそっと乗せ、互いに顔を見合わせる。
「よぉし! じゃあ、いっちょやってみようか!」
八重が張り切って声をかけると、トキコが頷きながらも「自分で動かさないでよ、八重」と苦笑いする。
「うるせー。いくよ!」と、八重が反論する。
雪姫は、ズレ落ちそうな眼鏡を片手で持ちながら、じっと10円玉を見つめる。
八重がゆっくりとよく通る声で言った。
「コックリさん、コックリさん、おいでください。もしおいでくださいましたら、『はい』へお進みください」
しばらくすると、三人の指がそっと触れた10円玉が、なんと「いいえ」へと滑り出した。
「ちょっと、八重やめてよ!」と、トキコがすぐさま八重を睨む。
「やってないよ! 雪姫、力入ってるんじゃないの!」
「い、いえ……そんなことはないと思うんですけど……」
と、雪姫は戸惑いながらも、初めてのコックリさんにあたふたとする。
「あなたは、コックリさんではないのですか?」
と、八重は若干イラつきながら、改めて10円玉に向かって語りかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます