第7話 親愛以上、信頼以下。
「ごめん飛鳥。僕もう限界だ」
まだ蒸し暑い夏の昼。通学路の橋の上で偶然君を見つけた。今にも飛び降りそうな君を。
私に気づくと奏はそういった。
「ごめん」
そういって奏は橋の手すりに手をかける。
ああ。もう飽きたよ。
私はまるで死神だ。関わる人すべてを不幸にさせてしまう。
以前、私に笑いかけてくれた君の顔が脳裏に浮かぶ。
「ねぇ、」
気づいたときには奏での手首を掴んでいた。
どうせ終わらせてしまうなら、、、
「私といっしょに逝こうよ。死への旅に」
奏は今にも泣きそうにな顔をしながら、私の手を握り返した。
―――――――――――――
「どうせ、全部終わるんだ。最後くらい楽しもう」
飛鳥はそう言いながら荷造りを進めていく。
飛鳥の親は昼間には仕事で家を開けている。そのすきに荷造りをし、一生のたびに出るんだ。
お菓子に財布、懐中灯にハンカチ。そして、、、ハサミ。
「そ、それももっていくの?」
予想外な荷物に僕は戸惑ってしまう。
「うん、何かあった用の武器」
飛鳥は部屋をぐるりと見渡したかと思うと、勢いよくこちらを振り返る。
「よし、次は奏だ」
奏での家には誰もいなかった。それもそのはず。
まだ僕が小さい頃に両親が離婚し、父親の行方は知らない。
母親は毎日知らない男を家に連れ込み、を...
僕を、殴るんだ。
かという母親も夜にしか帰ってこない。
2人とも昔はやさしかったよね。
でも僕もう心も体もぼろぼろだ。
お別れの言葉はない。感謝することも、ない。
僕は通学バックに床に散らばっている飴玉や小銭をいれる。
「奏、、、これまでよく頑張ったね」
突然頭の上に飛鳥の手が置かれる。
それはどんな言葉よりも温かい手だった。
視界がくすみはじめる。
だけど、、、だけど、ここで泣いたらだめだ。
今は死にに逝かなきゃ。なにもないってわかってるのに。
「あとは、、、」
僕は立ち上がるとキッチンに向かう。
そこには、銀色に光るものがあった。
「カッター、」
僕は上着の内ポケットにカッターをしまうと、頬を叩く。
「いくぞ!」
――――――――――――――
どれくらい歩いただろうか。僕たちは知らない住宅街を彷徨っていた。
「もうちょっとで死ねるって、どんな気持ち?」
石ころを蹴っていた飛鳥は突然歩くのをやめて言う。
「なんというか、、、不思議な気持ち。夢の中みたい」
正直な感想だった。実際に今日死のうと思い、橋の上に立っていたところを彼女に見られたのだ。
一人で死ぬつもりだったが、誰かと一緒に逝くのもいいだろうと考え始めたとき、ある1つの疑問が浮かぶ。
「なぁ、どうして飛鳥も死のうと思ったんだ?」
すると彼女の顔に暗い影が通るのがわかった。そりゃ、聞かれたくないよな、、、
「ーたくて」
「ん?」
「だから姉さんに会いたいの!」
飛鳥は下を向いたまま声を上げた。
そのまま声もなく、涙を溢れさせた。
近くにあった公園のベンチにこうして二人、腰掛けている。
夕焼けが姿を隠した時間帯に人はだれもいなかった。
感情の波が落ち着くと、彼女はゆっくりと話してくれた。
4個上の姉がいたこと。その姉が交通事故で突然命を落としたこと。
家族の中で唯一私を愛してくれた姉に会うために今日僕を見つけ、死ににきたこと。
すべてを話し終わった飛鳥は背もたれに体重をかけると、ため息を吐く。
「早く会いたいなあ」
飛鳥のそんな言葉に何故か心が痛くなった。
奏は迷っていた。もしこれを言ったら飛鳥は救われるのかな。
でも一生悩みつでけることになるかもしれない。
僕らは人生の終点に向かって歩き始めた。
――――――――――――――
「綺麗、、、」
隣を見ると、飛鳥が目を輝かせながら海を眺めていた。
奏たちは足元まで海に入っていた。波が冷たくて心地よい。
そろそろ、人生のピリオドを打つとするか。
奏は内ポケットからカッターを取り出すとその刃を出していく。
僕を見た飛鳥も覚悟を決めたかのようにハサミを取り出すとそれを目の前に掲げる。
「ハサミは、2つの刃がついて1つ。まるで、姉さんと私みたいに繋がり合ってる。これがあったら最強なんて思ってた。でも1つになったらもう何もできない。ただ、取り残されるだけ」
だからこそ飛鳥は武器にハサミを選んだのだ。最後まで、姉との記憶を忘れたくなかったから。
「ねえ、奏。生まれ変わったら何になりたい?」
飛鳥は無理やり笑顔を作って聞いてくる。
「僕は、、、大きな木になって、みんなを見守りたいな」
「ふふ、なにそれ、、、」
飛鳥が吹き出す。それといっしょに瞳から溢れた水滴が光りながら海に戻る。
本気で答えてつもりなんだけどな。と内心思いつつ、僕もつられて笑い出してしまう。
突然に空気が入れ替わったのがわかった。
僕は首にカッターを。飛鳥は左胸にハサミを当てながら、向き合って立つ。
死ぬのは怖くない。なにも未練はない。あるとすれば、、、
「飛鳥。実は言わなきゃいけないことがある」
「なに?」
彼女の手を見ると、かすかに震えているのがわかる。
「橋であったときからずっと気づいてたんだけど、君の話を聞いてすべてが繋がったよ」
「な、なに?もったいぶらずに言ってよ」
声が震えているのが、奏の心臓の鼓動を早くする。
「君はー、」
「君は本当は死にたくないんだね。そして、君のお姉さんは君の傍にずっといるよ」
そう言い放つと、飛鳥は海にへたりと膝から落ちる。
その顔は絶望しているのか、安心しているのかわからなかった。
「僕に、お姉さんがいる場所を教えてもらいたかった。そうだろ?」
その途端、飛鳥は大声で涙を流し始めた。
――――――――――――――
僕は昔から幽霊が視えた。
橋の上で飛鳥をみると、遠くからはっきりと視えるレベルで強い霊が憑いているのが見えた。
話を聞いていくうちにこの霊は飛鳥の姉だと確信したのでいってみた。ただそれだけだ。
「ありがとう、奏」
飛鳥は涙で腫れた目でこちらを向くと、これまでに見たことがないくらい幸せそうな表情で頭を下げた。
「なんでぼくが視えるって知ってるのか知らないけど、君の姉さんはずっとそばに居続けると思うよ」
それを聞いた飛鳥は思いっきりはにかむ。
「ありがと」
飛鳥がそう答えるのを聞き届けた。
「君は、生きて」
僕は首にカッターを食い込ませると、それを思いっきり横に引いた。
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