匿名中ニ病企画

前半 純然たる漆黒の断罪者《エクソシスト》


「来たか


 闇が蔓延る夜。

 中世を彷彿とさせる豪邸の部屋にて。

 眼帯の女性が、女と思わせぬ鋭い目線を持って来訪者たる男を歓迎した。


「すまないな。アフリカのガウナヴ堕天の死神討伐依頼をしたばかりだと言うのに」


 豪雨の中、部屋を照らすものは何もない。

 あるのは窓越しで降り注ぐ雷のみ。轟音と共に堕ちた閃光がの目を白く輝かせた。


主人マスターよ。それはさしたる問題ではありません。人に仇なすモノを狩れと言うなら何処へでも駆けつけましょう」


 言葉は丁寧に、声は太く荒々しく唸る来訪者の男は紳士の如きお辞儀を見せた。

 その姿を見て赤髪の主人マスター──スーツを着た彼女は満足げに口を歪ませる。


「それは良かった。ならば無用な会話はここまだ」


 そうして主人マスターは瞳を閉じ、開いた。現る黄金の目を持って彼女は審判として命ずる。


よ。我らが神の名において断罪する権利を授けよう」


 鋭く中性的な声でロード──来訪者のを呼ぶ。

 それは男を人として扱うのではなく、対人外悪滅殺用兵器として扱うのと同義。


「ありがたく頂戴しましょう。それで人類領に入り込んだネズミは一体何処に?」


 よって神名を呼ばれた男は、神父服に似合わぬ豪快な笑みを見せ処刑場を問う。

 対して主人マスターは持っていたタバコを灰皿へ落とし…… 憤怒と殺意を瞳に宿した。


「イタリアにある辺境の村さ。既に犠牲は起きている。迅速に奴らを叩き潰せ」


 神託にロードは狂った笑みを浮かべる。

 これでまた人の優しき営みに貢献できると歓喜して。


「── Alles zum Wohle der anderen為に


          Die Jagdりの ist eröffnetまりだ


 そう謳った彼は悪鬼を塵芥へ帰す漆黒の炎を手に宿し、処刑場へと向かったのだった。








 その村は穏やかな場所

 都会のように生き急いで疲れることもなく、溢れた緑で人々を癒しただろう。


 全て──赤に染まっているが。


「遅かったか」


 処刑場へ変わり果てた村を見たロードが声を溢す。声は小さくとも荒々しいがどこか哀愁を感じさせた。


 草や建物も赤く空と月さえも赤い。

 まるで村の風景画を血で染めた光景に、ロードは臆する事なく歩み始めた。


「────」


 静かだ。

 風は死にカラスの鳴き声も消え、現存する音はロードが地面を踏む音のみ。

 住んでいた人は既に消え去ったのだろうかと思わせる惨劇だったが。


「ゥ……おかあさぁーん…………」


 少女の泣き声が聞こえた。

 殺風景な広場で一人だけ、座り込みながら母を呼んでいる。


「………………」


 ロードは歩む。

 言葉をかけず足を早める事もなく近づいた。

 少女まで後一歩の所で足を止め、男は少女の肩に手を添えて──












「なん゛でおか゛あ゛さんシんじゃ゛っだのォォォオオ!!!」


 盲目の少女が振り返り襲いかかる。

 穴になった両目に身体中に刻まれた亀裂と死体のように白い肌。

 もはや人と呼べぬ被害者に対しロードは。


「安らかに眠れ」


 白き炎を纏わせた。

 一瞬だ。人だった少女は痛みを知覚する事もなく塵へと消えていく。

 そうして広場は少女が泣く前と同じように静まり返ると思ったが……そうはならなかった。


 死体達が姿を現す。


「なるほど、屍食鬼グールか」


 肉体は腐り、欠けた骨が見え隠れした人型。

 己の魂が消えてもなお他人の生を奪おうとする存在がロードを囲い始めた。


 数は600以上。

 人外の巣窟を前にしてロードは──








 かつて世界には神秘があった。

 魔法と言えるソレは地上にあらゆる不可逆の奇跡をもたらし人類を繁栄させた。


 しかし光があれば闇があるように。

 奇跡に溺れて弱者を排する人間も現れる。


 妖怪。

 悪魔。

 堕天使。

 怨霊。

 邪神。


 強大な力に心が堕落した者達は世界各地で様々な呼び名で恐れられ、人類の敵として語られた。


 だが同時に。

 強大な力を手にしながら、弱者を守る事を貫き通す人達もいた。


 その人達の名を──エクソシスト。









「さて……を駆除するか」


 1254人の死体に十字架を刺したロードは歩み始める。元凶がいる教会に向かって。


 

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