22回 鬱ゲー主人公である勇者達の師匠になりました!
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鬱ゲー主人公である勇者達の師匠になりました!
あらすじ
例の如く僕は転生した。
ただ九割救いがないゲームの世界に転生したのは大問題だ。
『ダークネス』
太陽の光すら届かない暗黒に閉じ込められた世界。そこにいる人間は常に魔物から蹂躙され搾取されている。
男は遊び半分で無惨に殺されて、女性は使われてから殺されるなんて当たり前。
治安も悪いから、人間も盗賊とかろくでもない奴ばっかり。
名前の通り本当に闇一色。
でも数年もすればこの世界に勇者という光が現れる。ゲーム通りに進めば勇者は多少の犠牲を払って、この世界に数多の星が輝く夜空を取り戻してくれるだろう。
そして僕。
ゲーム知識を持っているので、効率よく強くなれる方法とか色々知っています。これを勇者が幼い内に教えていけば……!
そう言う理由で僕は勇者の師匠になります。
誰も知らないはずの勇者の村に侵入して師匠面して育てていき、
最終的には魔王幹部をブチ殺す。
そんな僕の第二の人生がスタートします!
本文
魔族や魔物が蔓延る世界は闇に満ちていた。魔物達の生みの親である人類全ての仇敵……魔王が誕生したからだ。
「相変わらず暗いですな」
光を阻む暗黒の空を見て、僕の隣で老人は嘆く老人は見るからに不安そうだ。さながら今の人類の状況を表しているよう。
だが仕方がない。
遥か彼方まで続く終わりが無い暗黒を見てしまえば誰だって不安の言葉を溢してしまう。
生命の象徴である太陽さえ見えず、どこまでも黒雲で覆われている光景は見る人の生気と正気を奪っていく。
周りを照らすのは松明や焚き火ぐらいなもので、とうの昔から「光」という存在は消え去っていた。
伝説として語られる勇者の剣と同じくらい、空から降りてくる光は空想のモノになってしまった。
「今あそこで遊んでいる子供達に、空は青かったと言っても信じて貰えないでしょう。それがどれだけ悲しい事か」
この崖は西側の森の奥まで見えるし、その下にある村の祭りの光景だってよく見える。焚き火の近くで元気よく走る二人の子供も。
「仕方ありませんよ、勇者はまだ誕生していないのですから」
何せ本編はまだ始まっていないのだから。
主人公の勇者が居ないのは当然だ。
「勇者ですか。そんな者が現れるのでしょうか?」
「現れますよ勇者は」
老人の声を僕は一刀両断する……いやそれ以前に。
それ以前にだ。
目の前のご老人は分かっているはず。
「いい加減演技も終わらせませんか?」
「……何の事かの?」
「勇者が現れる事は分かっているでしょう?」
この村で長を務めているなら知っているはずだ。なぜかって?
「──貴方は勇者誕生の地の守護者なのですから」
荒れ狂う風が通り過ぎる。
何かが起きる予感をさせたソレは、その言葉通りに変化が起きた。
老人が別人へと変わる。
相手を油断させる為にしていた演技をやめ、本来の姿はと戻っていく。
「……やはり知っておったか旅人よ」
覇気ある言葉を放った
曲がっていた腰は真っ直ぐになり、垂れていた目も尖り細くなる。自分の目の前に居るのは弱々しい老人ではない。
人類最後の希望を守る責任を背負い、重大な使命に己の人生全てを捧げた……守護者だ。
「何処でそれを知ったかは聞かん。数ヶ月一緒に過ごした人間として、お前の素性を疑うつもりもない」
そんな老人──いや歴戦の守護者が睨む。
小動物なら容易く殺せてしまう程の圧を放ちながら、こちらへ話しかけている。守護者は一切動いていないというのに、ナイフを喉に突きつけられたようだ。
「だがこの村の長としてこれだけは聞かねばならん」
持っていた杖を武器のように持ち、仁王立ちしながら守護者は問う。
だが僕は怯まない。こんな殺気程度で前に進むのを拒んでいるなら、そもそもこの死地には来ていないんだ。
「大切な人を守りたい……それだけだ」
転生者として、ここがゲームを元にした世界だと知っている人間として、僕はやらなければならない。
「守りたい……か」
主人公に罰ばかり与える世界だから、知っている僕がやらなければならない。
崖側へ一歩前に進み視線を下に向ける。
見えるのは笑顔で走り回る子供達。
本当に、本当に楽しそうだ。こっちまで釣られて笑顔になりそうな程に。
「蹂躙される光景を見るのは嫌なんです。もう二度と見たくない」
振り返る僕に対して守護者は無言のまま。
けれど伝わってくる。目の前の優しき老人が僕の意思を汲み取ろうとしている事を。
「村長さん。手伝ってくれませんか?」
「……一応聞くが何の為にだ?」
「貴方が死ぬのを防ぐ為にです」
「なんだと……?」
「いやもっといますね。死んでしまう人達は」
優しい村長だけじゃない。
ゲーム通りならあと数ヶ月で魔王の幹部がこの村は訪れて……全てを蹂躙していく。
その時はみんな死ぬ。男性は無惨に殺され女性は犯されてから死ぬ。賑やかで活気ある村は無人になり大地でで血を染める地獄と化す。
皆平等に死んでしまうんだ。
主人公の勇者以外は。
だからストーリーを知っている転生者の僕がやらなくちゃいけないんだ。
「勇者達を……いやあの子達を暗闇の底へ連れていかせない為に……僕はやらなくちゃいけないんだ」
────────────────
「ユリファ神よ、この子に祝福を……『ヒール』」
見知らぬ女性の柔らかい手が僕の頭に優しく乗せて、不思議な言葉を告げた。
『ヒール』
その言葉を唱えた瞬間に路地裏は仄かに緑の光で包まれて……一瞬で光なき世界へと溶けていった。
どこもかしこも暗い世界で、微かに光る奇跡を見た赤子は驚くように目を開かせていた。
それも当然だろう。その赤子……いや転生した少年からすれば、前世のゲームで何度も見た魔法にそっくりなのだから。
────────────────
『ダークネス』
ダークファンタジーの世界観を売りにした有名なRPGだ。他にも素晴らしいBGMやゲーム性と色々語れる部分はあるが今回はどうでもいい。
重要なのはすごく暗い世界観だ。
結論だけ言うと、このダークネスの世界は人間が生きるにはあまりにも厳しい。
魔王の幹部『破滅の使者』に滅ぼされた街がどれだけあるか。いや滅ぼされた国すらあった筈だ。
僕が生まれる前から空が暗いせいで農作物は殆どがダメになる。食料もなくなるから、他所から盗むが基本になり治安も最悪。
どれだけ酷いかと言えば──
「すまないねぇ……私が夢見ちまったばかりに、こんな目に合わせちまって」
──娼婦が子供を産んで店から捨てられる事が当たり前になるくらいにだ。
自分の母はシスターだった。
だったと言うのは、勤めていた教会が村ごと『破滅の使者』によって跡形もなく滅ぼされたからだ。
命からがら逃げてきたから母にはお金も食べ物もない。
だから彼女は体を売った。
元々地図から消えた故郷の村では綺麗だと噂される美貌の持ち主。生きる為にそうなってしまったのは仕方がなかったのだろう。
同時に。
暗い現実を忘れたいが為に、理想の夢を見てしまうのも仕方がなかったのだろう。
辛い過去から目を背くように、幸せな共同生活へ期待を寄せ、ただの商売を運命の出会いと勘違いして……その果てに刹那の幸福は予定調和と言わんばかりに砕かれた。
「なんで私は信じまったのかねぇ……魔王が生まれたこの世界に『光』なんざある訳ないのに」
母は子を授けてしまった。
治安も悪く貧しい街だと、そういう道具もなかった。そしてそんな街に住んでる住民達は自分の事で精一杯。
子供を養う余裕も当然ない。
だから、相手の男は僕達を捨てた。
「私は…………………………バカだよ」
いつも母はそんな話をしていた。
心を蝕む後悔を少しでも晴らしたいのか、誰もいない場所で罪を告白するように彼女は言葉をこぼしていく。
僕以外誰もいない場所で。
外だとまた男に付け込まれると思ったのか。
流石に生まれて一年も経たない赤子に話は理解できないと思っていたのか。
涙を流しながら彼女は毎日話していた。
そして転生してから数週間後。
「……あぅ、あぁ………………!」
僕も泣いてしまった。いやはっきり言おう。
僕は限界を迎えていたんだ。
前世はずっと孤独だった。
生まれた時から親から嫌われていて、生きるのに最低限必要な事しかして貰えなかった。
家にいた肉親は今世の母と同じで、男に捨てられた女だけ。
その女は付き合っていた彼の事しか見ていなかったのか、僕の事なんて殆どないもの扱いされていた。
愛なんて貰えなかった。
それでも最低限は育ててくれたのは……多分、死なせたら面倒だからとかその程度の理由だ。
ゴミ部屋の隅っこでタバコや注射器に逃げながらボッーとしている女性。そんな人をずっと見ていた僕が早々に見限ったのは当然の話だろう。
男に捨てられて快楽に逃げた女の息子は……同じ様に辛い現実から逃れる為に娯楽へ逃げた。
ゲーム。
始まりはテレビで気になるゲームを見つけた時。幸い女は金を持っていた。
彼女の目を盗んで金を持ち出しそのままゲーム屋へ。我ながらかなり無理のある行動だが、なぜか成功してしまった。
興奮を抑えきれずにプレイした事は忘れられない。
始めて楽しいという感情に触れたせいで夜通しやっていた。まあそんなペースでやれば一週間足らずでクリアしてしまう訳で。
そうやって沢山のゲームをプレイし続けていき──『ダークネス』に出会った。
楽しかった。
体のどこかが痛かったが辛いより楽しいが勝った。
お腹が減ったけど楽しい。
頭がふわふわするけどたのしい。
元から調子の悪い体がだんだん悪くなっている気がするけど、あんな何もない地獄にいるよりはすごく良い。
楽しい楽しい楽しい楽しい楽しいたのしいたのしいたのしいたのしいタのしいたノしイたのシイタノしイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイ…………………………
気が付けば赤ん坊に。ゲームの世界観からして設備も環境も前世より悪化している。そして神様の嫌がらせなのか、今世の母も前世の大っ嫌いな女と似ていた。
男に捨てられた所とか。
きっと前世は碌に食事も取れなかったから、栄養失調とかで死んだのだろう。別にそれは良い。結果はどうあれ最後は明るい感情に依存したまま死ねたから。
でもこれはないだろう。
また同じ事を、しかももっと厳しい世界で繰り返せなんて。
「あぁ、全然泣き止まないねぇ……一体どうしたら」
なんで、なんで。
その時の僕は全てを恨んでいた。
やっと苦しみから解放されたのに、また突き落とされて。
でも
「〜〜♪」
「ぁぅ………………ぁ?」
優しい歌声が聞こえた。
ありきたりに言うなら天使の声。
それ程に美しい声が聞こえた。
遥かに下にある暗闇の地獄の中にいた僕を引っ張り上げる、優しくて温かい声が頭上から聞こえたんだ。
そうして彼女は僕の顔を見たんだ。
多少のシワにボサボサの髪の毛と隈がある女性が見えた。美しさは損なわれていないが、僕が気になったのは目を瞑りながら歌っている優しい顔だった。
前のあの女にはなかった。
だからだろう。
僕もちょろいとは思うが。
その歌声を聴いて僕は、この人の支えになろうと決心した。それが僕の第二の人生。
何も残せなかった前世とは違う、誰かの為に生きる人生を過ごそうと決めた瞬間だった。
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