アニマルセラピー追い求めてたら、動物じゃないのが来たんだが!?
水水
第1話 虚像の日々
俺の名前は
冴えない顔をしているとよく言われるがそんな俺にも彼女がいる。俺にはもったいないくらいの可愛い彼女だ。彼女とはこの先もずっと一緒にいたいと思っているのだが、最近の関係性はあまり良くない。
『沙織、一緒に帰らない?』
『私は用事があるから行けない。じゃ、また明日』
というような感じで最近は何に誘っても断られている。
でも本当に用事がある訳でもなさそうなんだよな。沙織の友達が遊びに誘ったときは断らずにカラオケやら買い物に行ったりしているし‥‥‥‥
でも今日は友達の誘いさえ断っている。何かあるんだろうか———例えば浮気相手に会っていたりして‥‥なんてな。まぁ、沙織に限ってそんな事はないだろう——そう信じたい。
でも胸の内にある不安は拭いきれずにいる。なんてったって何の才能もない、ましてやイケメンでもない俺が彼女と付き合えたのは奇跡のようなものなんだから。
そう理解していてもやはり気になってしまう‥‥‥浮気じゃないにしろ、何か後ろめたい理由があるのでは?と勘繰ってしまう。
でもそんな思いと決別するために、今日はあることをすることに決めた。
それは————
「後をつけるか」
そう、ストーカー‥‥‥ではなくて、自分の目で確かめるのだ。
教室を出ていった沙織の後ろを適度な距離を開けながらついていく。
しばらくたったころ目的地であろう駅までバレずに来れていた。内心ヒヤヒヤしていたがどうやらバレていなかったみたいだ。
「でも杞憂だったかな?いつも通学で使ってる駅だし‥‥‥」
はぁぁ‥‥自分の勘違いだった上に沙織を信じきれていなかった自分に嫌気が差す。
でもあの事はとっくに吹っ切れたと思っていたんだけどな。まだ人を信じられないらしい。
「ふぅ‥帰ろう。なんか今日は疲れた」
金曜日ということもあるだろうが、それだけじゃないのは確かだ‥‥
今日の出来事を思い返しながら踵を返しトボトボと重い足取りで歩き始める。
「でもまた沙織と一緒に帰ったり、遊べたりできたらいいのにな‥‥‥」
浮気してないのは分かったものの、急に素っ気なくなった理由はまだ分からないままだ。明日聞いてみるか‥‥
でも仲良くしたいと思っているのは俺だけだったりして‥‥
「どう思ってるの?俺には分かんないや。‥‥‥‥‥‥えっ!?」
振り返った俺の目に飛び込んできたのは、沙織の家から反対方向へ進む電車に乗ろうとしている、沙織の姿だった。
それを見た瞬間、何かあると直感した俺は猛スピードで走り出した。
「遅い」と馬鹿にされた体育祭のリレーの時の何倍ものスピードで走った。
ギリギリで乗車できた俺は人混みをかき分け沙織を目で捉える——これで見失うことはなくなった。
でも本当に浮気されてたらどうしようか。もう立ち直れる気がしない。
救ってもらった彼女にも裏切られたら、もう俺は‥‥‥
ふと電車の窓に目をやると、まるでスライドショーのように景色が過ぎ去っていく。
それに重なるように彼女と過ごした日々が頭の中で再生されていく。
寂しい。誰か隣にいてほしい。そう思っていた時に一緒にいてくれたこと。
助けてくれる人が誰もいない、そう思っていた時に手を差し伸べてくれたこと。
そんな彼女との思い出が再生されていく。
でもそんな彼女との日々が、嘘で塗り固められた日々だったとしたら‥‥
もし、遊びで俺の告白を受け取ったんだとしたら‥‥‥
俺は本当に‥‥立ち直れない。
この電車に乗ったことを今更後悔している。
この先を見たくない、そう思ってしまう。
でも電車と時間は止まることをせず、着々と終わりへと近づいていく‥‥
遂に沙織は電車を降りた。俺も続くように降り沙織についていく。この結末を見るために‥‥‥
「‥‥‥はっ、マジかよ」
視界が滲む。目の前には沙織と仲睦まじそうに腕を組み「愛してるよ」「私も!」なんて言い合っている2人がいた。
足掻いても無駄だとは分かっている。でも彼女に縋るしか無かった。助けてくれたのは沙織しかいなかったから‥‥
トボトボと歩き沙織たちに声をかける。
「ねぇ、沙織‥‥‥だよね?隣にいる男は誰?」
「‥‥えっ、何でここに‥‥‥?」
心底不思議そうな顔をしているが、今はそんな事はどうでもいい。
彼氏なのかなんなのか結論を聞きたい。
返答に急ぐ俺の顔が怖かったのか、隣の男がバッと手を広げ沙織の前に立つ。
そして———一番聞きたくなかった言葉を放つ。
「沙織は俺の彼女だ」
「っっっ!?ちょっと待て。沙織は俺と付き合っていた筈だろ!?」
「何言ってんだ?何よりお前は誰だ?」
「俺は宵田朔。沙織の彼氏だ」
「嘘言ってじゃねえぞ!沙織からも言ってやれ。私はそいつなんか知らない。気持ち悪いから近づかないでって」
嫌だ。聞きたくはない。けど沙織なら言わないって信じてる。
そんな願望は沙織の発した言葉であっさりと踏みにじられた。
「私は‥‥‥宵田朔なんて知らない。気持ち悪いから近づかないで。これ以上付き纏うのもやめて!!」
「っっっっっっ、ははっ‥‥‥‥」
乾いた笑いしか出なかった。涙すら出ない。
それでも最後聞いておきたいことがある。
「俺の告白は遊びで受け取ったものなのか?心の中で嗤ってたのか?その後の日々も全部嘘だったのか?」
「当たり前でしょ!何を今更」
「はははっ‥‥‥‥ははっ‥‥そうかい。分かったよ」
その答えが全てだろう。俺が信じていたものはただの虚像にすぎない日々だった訳だ。
ははっ、笑えるな。
力なく地面に倒れ込みそうな脚に力を入れ駅を目指し歩き出す。
すると後方から———
「もう沙織に一切近寄るなよ!!!」
何当たり前のことを言っているんだ?
関わることなんてもう一生無いだろう。それこそプリントの受け渡しなどのやらなければいけないこと以外で関わり合うことはない。
「ははっ‥‥‥ほんとに笑えるなぁ」
電車に乗り自宅の最寄り駅で降りた。
思ったより遅い時間になってしまった。補導されるほどの時間ではないが、日が落ちあたりは暗くなっている。
そして外はサーッとアスファルトに雨が打ちつける音と、ぴしゃぴしゃと水溜まりを踏む音だけが響いている。
電車を降りたのを見計らったように降り出した雨は、今の心を表しているようだった。
「ぅぅぅ‥‥‥あぁ‥‥」
溢れ出す涙は顔に滴る雨によって流され、歩くたびに漏れ出す嗚咽は雨音によって掻き消されるのだった。
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