三夜一夜物語

黒潮 潤

第一夜 君と出会った夜

第1話

ここは宇宙の果ての果てーー。これはベガと呼ばれる星で暮らす少女の物語。


7/18

「織姫ちゃん。今日の調子はどうかしら?」


「昨日より良くなってます。心配していただきありがとうございます」


「ならよかったわ。早く元気になってお勤めに参加しないとね~」


母も、そのまた母も機織りの名手という家系に生まれた織姫。そのため、本来であれば12歳ごろから、神々のために機織りのお勤めに参加しているはずの人材だ。しかし、生まれた時から体が弱く、14歳となる現在まで、ベガと呼ばれる星に匿われ療養中である。


「何から何まですみません。早く治してお勤めに参加しますので」


「気にしないで。ただ、焦らないことよ織姫ちゃん。私たちはあなたの味方なんだから。ゆっくり治すのが最優先よ」


世話人の女性達に囲まれながら療養生活を送る織姫。周囲の人物は彼女を大切に思う者ばかりで、これ以上ない環境に身を置けている。

ただ、こんな生活も5年程度になるだろうか。様々な治療を試みたが、せいぜい現状維持ができているだけで完治する傾向はみられない。


「そうそう、言い忘れてたわ。明日、近くのアルタイルにあなたと同年代の男の子が来るって話があるのよ。彼も仕事中に怪我をして治療しにくるみたいよ」


「同年代の男の子ですか…」


「噂によるとイケメンらしいわよ。よかったわね織姫ちゃん」


だからこそだろうか。世話人たちは織姫が暗い気持ちにならないよう明るい話題を提供し続ける。彼女の話によると隣の星であるアルタイルに織姫と同年代の男の子がやってくるとのことだ。はたしてこの出会いが織姫にどのような影響を与えるのだろうか。


7/20

翌日、世話人の話通りアルタイルに男の子がやってきた。ベガやアルタイルに人がやってくるのはそう多くない。それが若者となればなおさらだ。そのため、周囲の人間はその男の子の噂話ばかりしている。…どうやら、彦星と名乗り、仕事中の怪我で療養に来たとのことだ。


「織姫ちゃん、昨日話していた男の子の件だけどもう来たみたいよ。彦星くんっていう牛飼いの子らしいんだけど、仕事中に骨折しちゃったみたい。せっかくだし会ってみたら? あなた若いんだから私たちみたいなおばちゃんと話してばかりじゃもったいないわ」


「…少し緊張しますが。ただ、ここで勇気を出さないとお友達なんてできませんよね。よければ会ってみたいのですが、牛車を出してもらうことはできますか?」


「私たちは問題ないわ。あとはあなたの体調次第だけど…、最近の様子を見る限りそれは大丈夫そうね。分かったわ、段取りはしておくからあなたは気持ちの準備だけしなさいな」


自分の親世代の世話人に囲まれ生活している織姫。そんな彼女にとって、同年代の人間との交流など実に数年ぶりとなる。興味関心が沸かないわけがない。初めて会う同年代、それも異性との交流に緊張はしながらも、勇気を出して面会希望を出す。…友達を作るという彼女の夢をかなえるために。


「よ~し。今日は少し忙しくなるかも。ただ、可愛い織姫ちゃんのためだったら苦にはならないわ!」


そこから先はあっというまだった。おせっかいな世話人のおかげで、面会スケジュールがあれよあれよと決まっていく。二人のファーストコンタクトは明後日となったようだ。



7/25

今日が約束の日だ。久しぶりに同年代の者と会うこともあり、織姫は入念な準備をする。…異性と会うからというのも影響しているかもしれないが。


「準備できました。何から何まで準備していただき本当に感謝します」


「いいのよ。じゃあ出発しましょうか。目的地は天の川よ」


ベガとアルタイルの中心にある天の川。世話人の話によると、ここで二人が落ち合うよう約束しているようだ。ただ、牛車に揺られる織姫の表情は緊張でこわばっていた。


「着いたわよ。あとは楽しんできなさい。顔がこわばってるからスマイルを忘れないようにね」


「ありがとうございます。頑張ってきますね」


天の川に到着し織姫は辺りを見回す。すると、見たことのない牛車が目に入る。おそらくあれが彦星のものだろう。さすが牛飼いの乗る牛車といったところか。これほどまで高度に調教された牛車は見たことがない。そんな光景に驚きながらも、彼女はアルタイルからの来訪者に近づいていく。


「は、はじめまして。織姫といいます。今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ。俺の名前は彦星です。これからよろしくね」


煌めく星たちに囲まれ佇む二人。つたない自己紹介を終え、これからどうしようか戸惑っているのか、無言の時間が続く。


「…そうだ織姫さん。せっかく天の川に来たんだし星を眺めながらお話でもしようか。君の話も聞きたいしさ」


「…そうですね。よろしくお願いします」


時間にして30分程度だろうか、輝く星を見ながら二人は世間話を行う。…もっとも話が盛り上がったとは言えない内容だったが。


「…残念だけど時間みたいだ。アルタイルに戻らないと。また会える日を楽しみにしてるね」


「私も迎えの牛車がそろそろ来ますし、解散ですね。今日はありがとうございました」


お互い迎えに来た牛車に乗り込み自分たちの星へと帰る。


「織姫ちゃん、今日はどうだったの?」


「…正直うまく話せませんでした。私ってだめだなぁ」


「クヨクヨしないの。時間ならまだあるんだから、ゆっくり仲良くなればいいのよ」


「そうですね…。これから頑張ります」


こうして2人の初対面は幕を閉じた。はたしてこれからどうなるのだろうか?

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