第4話 藤澤夕綺と奈良大成

5時間目中、窓側に座る藤澤夕綺の後頭部をぼんやり見ていた。

中学の時は特に関わりは無かったし話したこともない。

それは高校生になった今でもそうで、後ろ頭の反対側は思い出せない。

会話は七星に任せよう。


とにかく早く次に進みたいので5時間目のチャイムが鳴り終わるまでにふたりで藤澤夕綺に向かった。


「藤澤」


と七星が後ろから声をかけるとぎょっとして藤澤夕綺が振り向いた。


色素の薄い瞳が怯えながら2人を交互に確認する。

午後の窓から差し込む光が吸収されずにその目に反射して光っているせいで涙目に見える。


「え、と。松浦さんと、中…川さん」


「あのさ、」


七星が話を進める。


「さっき音楽室いたよね?あれって、何の集まりなの?なにしてんの?」


なにしてんの?は尋問すぎるだろ。


「あれ、なになにー?さっき音楽室に来てた人たちじゃん。夕綺の友達だったの?」


どこからか1人の男子が取り調べ空間に割って入ってきた。


「あ。あなたもさっき音楽室にいたよね?」


そうなんだ。眼鏡をくっと押さえて確認した。


「うん」


「あれって何してんのかなって。さっき落とし物届けに行った時にさ、この子があの桜木さんって人に恋したみたいで」


「「「えっ」」」


3人で声を揃えたが後入りのそいつが何故か唯一ニヤけている。

「ち!ちがう!!そういう意味じゃなくてすごく綺麗な人だったから気になっただけで!!」


「そんな必死で否定しなくても。恋愛は自由だよ〜なんなら俺でもいいよ〜。あ、1組の奈良大成っていいます。君たち名前なんての?」


めんどくさい。

ナラタイセイ、こいつは苦手なタイプだ。


「軽音部だよ、桜木先輩は部長」


藤澤くんは奈良のめんどくささをわかっているのだろう。キレイにスルーした。


「藤澤も軽音なの?なんで部室使わないの?」


七星もキレイに彼を無視しているせいで、奈良がにこにこしながらずっとこっちを見ているんだが。


「狭いし綺麗じゃ無いからね。長岡が顧問だし、音楽室になんとなく集まってる感じかな」


「へぇ。お昼ご飯集まるなんて軽音って仲良いんだね」


私も頑張って奈良をはじいて仲間に入ってみる。


「あそこには軽音じゃない人もいるけど。他に幽霊部員みたいなのも併せたらもっといるよ。メガネちゃん入っちゃう?俺がギター教えてあげるよ」


ひいぃ。こいつだけは“そら”でありませんように。

てか、ない!こいつだけは絶対にない!!


「じゃあ、みんなギターとか弾けるんだ?」

「さっきいたメンバーは弾けるかな」


七星、藤澤くん、私にこいつ任せて置いてかないで。


「左利きのひと、いる?」


わ。切り込んだ。


藤澤くんと奈良が目を見合わせる。


「左利き用のギターもあるけど。左利きでもギターは右利き用っていうか、普通のギター使う人の方が多いんじゃない?」


藤澤くんが七星と私に答えた。


「メガネちゃんは左利きなの?大丈夫だよ俺がおしえてあげ……」

「そっか、ありがと」


七星が私の背中を軽く押し、離れた。

チャイムが鳴り、待ってるねー!という奈良の声を背に、少し離れたところで2人で「うざ」といった。




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