芥川裕の洒落にならない怖い話・不思議な話・奇妙な話

芥川裕

深夜の通販番組

私がまだ地元にいる時に美容師のAさんから聞いた話だ。

Aさんはその頃、まだ美容師になりたてで営業後に新人だけでカットの練習会をしてから清掃作業も行う為、帰宅するのは午前様だったそうだ。

その日もいつもの様に帰宅後、軽くシャワーを浴び、テレビをつけてご飯を食べようかとしていたら、疲れからかソファでいつの間にかウトウトとしていた。

ハッと目を覚まして時計を見ると一時間程寝てしまっていたらしい。

彼はとりあえず買ってきたお弁当を食べようと蓋を開けて、食べ始めた。

その時に、テレビから聞こえる音に違和感を覚えた。

テレビに視線を向けると、見たこともない50代位つぁグレイヘアをきっちりとセットしたスーツを着た人物が商品を説明している。アシスタントも見たことがない四〇代程の高身長の綺麗な女性だったという。

彼は初めてみるその番組をローカル局の番組なのかなと思ったそうだ。

弁当を食べながら、番組を見ていると変わった商品を紹介している事に気づいた。

先程紹介されていたのが″亀の目玉″、そして今紹介されているのが″蝉の幼虫″なのだ。

亀の目玉の時は説明内容は弁当を食べていて、上の空だったので商品名だけを見て精力剤なのかなと思ったそうだ。

しかし、今紹介されている蝉の幼虫は司会者の手元のガラスケースの中で十数匹がうじゃうじゃと蠢いている。

司会者はそれを手で掻き混ぜながら何やら説明しているのだが、日本語なのだろうが訛りの強い方言のようで上手く聞き取れない。

アシスタントもニコニコと微笑み、それに頷いている。

司会者の言葉で聞き取れたのは″テレビ″、″足 ″、″ビタミン″くらいだったそうで、それ以外はさっぱり聞き取れなかったらしい。

そして、説明が終わった後に値段が画面に表示されたのだが千円と割と安かったのでAさんは特段欲しくはないが、話のネタに買おうかと思ったのだがいつまで経っても購入用の電話番号が表示されない。

もしかして、司会者かアシスタントが言ってるのかもしれないが画面には表示される事はなかった。

そのまま、今日紹介したらしき商品がいくつか表示された後、司会者とアシスタントがお辞儀をして番組は終わったそうだ。

変わった番組だなとその時思ったものの、眠気もあり弁当を食べ終わったらそのまま床についた彼は、やはり先程の番組は妙だなと思ったという。

そして、次の日出勤して、美容室の前日の新聞のテレビ欄を確認してみた。

深夜一時から二時あたりの欄を見ても、放送休止か天気予報くらいしかやってなさそうだった。

昨日同じくらいの時間帯に帰宅した同僚に、通販番組の事を話しても知ってる者はいなかった。

仕事中も昨日見たのは夢なのかと思ったが、今朝家を出る時に机上の弁当の空箱をゴミ箱に入れた事からも弁当を食べながら見ていたため、夢ではなさそうだった。

その日は早く帰れたので、少し仮眠をし0時から三時くらいまで色々なチャンネルを見て回ったのだが発見出来ず、結局それ以降同じ番組は見ていないらしい。

話の最後に彼は、あの時に蝉の幼虫を注文出来なかったのが未だに悔しいんですと笑っていた。

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