12日目「運命の人たけし」

 チョコバナナの棒を木剣のようにして歩いていると子供の頃に適当な木を拾って歩いたことを思い出す。あの頃は服を着ていたが。

 市場を抜け、当て所もなく街を徘徊していると、ピンクのワンピースに白いシャツを羽織った女性が近寄ってきた。

「あの、よければうちに泊まっていきますか」

 ぼくらの頭の上の何かを確認して、一人の女性がたけしに話しかけてきた。

 こんな不審者、もといた世界なら通報するか、叫んで逃げ出しそうなものだ。それなのに、たけし先輩に話しかけるなんて男としてのプライドが崩れるような感覚に襲われる。

「あ? おれか?」

「はい、よければお連れ様も」

「わりいな、おれは王座を目指さないといけねえんだ」

「ですが、いま、あの」

 突然、彼女の声が震えて泣き出しそうになる。何かを言いたいのに、それ以外の言葉が言えないような妙なもどかしさが伝わってくる。

「あの、うんめ、うんめ、うん……」

「なんだ?」

 言い淀む彼女に、たけしが詰め寄る。あんまり近寄ると彼の身体が彼女のスカートの裾に触ってしまいそうでヒヤヒヤする。

「うん、うん……」

「なんだよ、言ってみろ」

 だんだんと態度のデカくなるたけし先輩に、ぼくはハッと気づいた。

 そうだ、この人、女性に対して妙に態度がでかいんだった。だからずっと、ぼくらは元の世界でフリーの男同士、花の男道を進んでいたのだ。

「……運命の人なんです」

「は? おれがか?」

 いよいよ一筋の涙を流しながら女性が全て言い切った。

「はい、一目見た時から。だからうちの宿舎に泊まって欲しいんです。一晩だけでいいんです。そのあと王座行きの車も出しますから」

「よくわかんねえけど、しかたねーな」

 一体、どの立場からモノを言ってるのだと思った。たけしの言葉に、彼女はたけしの頭上を確認して、長い息を漏らしたのを見逃さなかった。それは喜びや感動ではなかった。むしろ「運命の筋書き」に従うしかないと悟った諦念の溜息に見えた。

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