箱庭マイホーム
いずいし
第1話 これが………異世界?召喚?!
行き成りの現象に立ち尽くしていた。
多分、これが異世界召喚って奴なんだろう。
なんせ初めての事だから俺も良くはわからないけど。
ただ、バカ騒ぎする一部の奴らを尻目に、俺がまず最初に思ったのは『明日から会社に行かなくても良いんだな…』と言う後ろ向きな思考だった。
だって、毎日会社を辞めたかったからさぁ…。
長年勤めた会社だったが、代替わりで新たに加わった年下の上司と反りが合わず、度重なる安易な業務変更に無駄な時間を奪われ、日々ストレスを蓄積していた。
『業務の効率化を目指して』って言うけど、前の方が効率的だったんだよねぇ。
断然早く帰れたし。
でもこれで会社には絶対に行けないな。物理的に行けないんだからしょうが無い。連絡も出来ないのは社会人としてどうかと思うけど、電波が届かないんじゃ連絡のしようも無い。
俺が心の中で会社に行けない言い訳をしていると、既にステータスを確認した若者達が更に騒ぎ出していた。
自分のステータスとか本当ゲームみたいだ。
「おい!見ろよ!!俺『魔法剣士』だぞ!これ当たりじゃね?!」
「バーカ、人のステータスは見えねえって言ってたろ?それより俺は『聖騎士』だ!異世界で勝確っしょ!」
「ぎゃははは!マジウケる!お前じゃ『性技の性騎士』の方が妥当じゃね?」
男子高生の集団が自分のステータスを見て大騒ぎしている。女子は女子でキャイキャイと、『ヤバ!マズイよただの剣士だって〜』『私は魔術士!』とお互いのジョブを確認し合って、こちらも賑やかだ。
他にも俺より年上のサラリーマン達や買い物途中の主婦っぽい人、幼稚園ぐらいの兄弟がここに集められていた。
ここいるのは偶然そこに居合わせただけの見ず知らずの集団だろう。偶々けったいな召喚にぶち当たり、何処とも知れぬ場所へと飛ばされて来た他人同士。勿論、俺は顔見知りさえいない。
日本人と言う事以外の接点も無い集団。
まあ、なんでも良いか。関係無いし。
だが、今は誰かの下で仕事をしたい気分じゃない。ここに呼ばれたのは同意の元でも無いし、どんな事情があろうと協力する気は更々無かった。
「……ステータス」
でも流石に自分の現状把握はしなきゃな。
その日暮らしでも、生きていく術は欲しいからね。
名前 箱守 優志(はこもり ゆうし)
年齢 38歳
ジョブ 箱庭士 Lv1
スキル 精神耐性 疲労耐性 速読 算術 健脚 料理
魔法 未習得
……………ふむ。
『箱庭士』とはなんぞや?
それにしても、覚えている『スキル』の切なさに涙が出そう。俺、頑張ってたんだな。
早速、頭の中で漠然と『箱庭』を思い浮かべてみた。ジオラマや心理療法で使われるアレだよな?
『箱庭』と言っても大した知識は無い。
だが、不意に思い浮かんだのは、子供の頃に遊びに行った祖母の家。庭に小さな畑がある平屋の家で、祖母はよく縁側に座って猫を膝に乗せて撫でていた。裏にはちょっとした山があって、夏休みに遊びに行った際には、朝早くからクワガタ採りに通ったな。田んぼの横を流れる小川にはメダカもいて、とても澄んだ綺麗な水が流れていた。
暑さも気にせず、良く遊んだ記憶が蘇る。
祖母が亡くなって随分経つけど、その時の光景は今も鮮明に覚えていた。
強いて言えば、祖母の家をミニチュア化したら『箱庭』っぽいな……と思っていたら目の前に引き戸の様な物が出現した。
………え???これ……ばぁちゃんちの玄関扉に見えるんだが?
それでも周りの奴らはノーリアクション。
俺はそっと戸を開けた。
カラカラと引き戸の戸車が回る。
その音にも誰も反応しない。
さっと、中に入り扉を閉めると、目の前には思い描いた『ばぁちゃんち』があった。
まさか、と思いつつも庭を横切り、今度は『家』の玄関を開けて中に入った。
「ばぁちゃん!!」
40㎡ほどの2DKの部屋の中を探した。
寝室にしていた6畳の和室。DKの横につながる洋間と小さな
異世界だからといって、流石に死んだ人が出て来ることはないか………。
一通り見て回り、ふぅと、息を付いて縁側に座った。当たり前だけど、ばぁちゃんもミケもいない。
畑には夏野菜が元気に育っていた。風も太陽もあの時のままようだ。
俺が遊びに連れて来て貰ったのが、夏休みだったからかな?その時の記憶のままに再現された『ばぁちゃんち』だった。
そうして暫く縁側で佇んでボーーーっと時間を過ごした。
あ、やばい……外は今どうなってるだろう?
庭先の空間にポツンと立っている引き戸を少し開けて覗いてみた。
「…………なので、皆様のお力をこのリュゼール王国にお貸し下さい!!」
おう……なんか煌びやかな王子様っぽいイケメン君が演説かましてる………途中からじゃ全く意味がわからないし、これじゃまるで朝の朝礼に遅れた生徒の気分だぞ。
まあ、何のお願いかは知らないけと、俺は『お貸ししない』一択なんで別にいいか。
一緒に来た集団も、王子様御一行も、今は高らかな演説に意識が向いている。
その脇で
お兄ちゃんらしき子供が弟の背中を擦っている。……具合が悪いのか?
俺は屈んで中腰になると、扉から上半身だけ出して、ゼスチャーでその兄弟においでおいでと合図を送った。
中々気付いて貰えなかったが、お兄ちゃんの方の視界に俺が入った様で、弟を支えてゆっくりと俺の方へ歩いて来た。
「………おじちゃん、そこトイレある?」
「トイレか?この中にあるから来な!」
………うぅ……おじちゃんか……泣かないぞ!
分かってる!例え独身だろうと、推定園児から見たら38歳は立派なおじちゃんだ。
下手をしたら君等のお父さんより年上だもんなぁ?!
そして、決壊間近の弟君を優しく抱き上げて、俺は急いでトイレに向かった。
ただ残念な事にずっと我慢していた弟君は、便器を見た瞬間、放出してしまった。
俺の腕の中で………。
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