第9章 新しい私へー未来への扉を開いて⑤【最終話】
9.4.4 未来への夢
履歴書の最後の欄に、私はゆっくりとペンを走らせた。
「三島 陽菜」
戸籍変更が完了し、私は正式にこの名前を名乗ることができるようになった。
生まれてから二十一年。
ずっと望んでいたものが、ようやく形になったのだ。
履歴書の性別欄には、迷うことなく「女」と記入する。
今までも、私はずっと「陽菜」として生きてきた。
大学に入ってからも、友人たちに支えられ、社会の中で少しずつ自分の居場所を築いてきた。
でも、それはあくまで周囲の理解と配慮があってこそのものだった。
今日、私は「法律の上でも」女性として認められた。
それを実感した瞬間、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
——これまでの人生のすべてが、この一瞬に繋がっていたんだ。
「陽菜、履歴書もう書き終わった?」
芽衣が隣から覗き込んできた。
彼女はいつも通り明るい茶色の髪を肩のあたりで揺らしながら、ニッと笑う。
「うん、終わったよ」
「よし!じゃあ次は証明写真撮りに行こ!履歴書の写真、大事だからね。バッチリ決めなきゃ!」
「そうそう、第一印象って超大事だし!」
奏音も腕を組んで頷く。
彼女は金髪のボブを指でくるくると弄びながら、「どんな服で撮る?」と聞いてきた。
「スーツで撮るつもりだけど……メイクとか、どの程度すればいいのかな」
「ナチュラルメイクでしょ!盛りすぎるのは逆効果だよ」と凛がすかさず口を挟む。
「でも、ちゃんと自信が持てるくらいには仕上げなきゃね。陽菜、いつも可愛いけどさ、今日はいつも以上に気合い入れよ!」
凛は昔から私のことをよくからかうけど、結局のところ、私のことを気にかけてくれている。
「私、陽菜ちゃんに似合う色のチーク持ってるよ。後で貸すね」と柚葉ちゃんが優しく微笑む。
「ありがとう、柚葉ちゃん」
「でもさ、陽菜なら絶対大丈夫だよ!」
芽衣が自信たっぷりに言った。
「だって、陽菜って本当に頑張ってきたじゃん?この3年間、いろんなこと乗り越えてさ。面接官がどうこう言う前に、まず陽菜自身が『私なら大丈夫』って思わなきゃ!」
その言葉に、私はふっと笑みをこぼした。
——そうだ。私は、ここまで歩いてきた。
どんなに苦しくても、諦めなかった。
「うん。大丈夫。私、ちゃんとやる」
「よし!じゃあ、証明写真撮ったらお祝いね!」奏音が腕を組みながら言う。「今日はみんなで集まって、未来の話しようよ」
***
その日の夜、私たちは久しぶりに全員集まって、未来について語り合った。
「私は管理栄養士として、人の健康を支える仕事がしたいな」柚葉ちゃんがそう言いながら、目を輝かせる。
「昔から食べることが好きだし、誰かの役に立てるのが嬉しいから」
「私は楽器関係の仕事に就きたい!」凛が元気よく宣言する。
「楽器屋でバイトしてるうちに、音楽ってやっぱりいいなって思ってさ。
ずっと吹奏楽やってたし、このまま好きなことを仕事にできたら最高でしょ?」
「私はね、自分の店を持ちたいんだよね」芽衣がワクワクした表情で話す。
「経営学科にいるのもそのためだし、最初はカフェとかから始めて、いずれはアパレルもやりたい!」
それぞれが夢を語る中で、私は改めて思う。
——私は、どんな未来を望んでいるんだろう?
「陽菜は?」
ふいに奏音が尋ねた。
みんなの視線が私に集まる。
「私も……」私は一呼吸置いてから、ゆっくりと口を開いた。
「誰かの力になれる仕事がしたい」
漠然としているかもしれない。
でも、それが今の私の正直な気持ちだった。
「ここまで生きてこられたのは、たくさんの人が支えてくれたから。家族や、みんなや、大学の先生や、バイト先の人たち。だから今度は、私が誰かを支えたい。そんな仕事がしたいな」
言葉にしてみて、心が少し軽くなる。
「いいじゃん!」芽衣が大きく頷いた。
「陽菜なら絶対にできるよ!」
「うん。だって陽菜ちゃん、すごく優しいし」と柚葉ちゃんも続く。
「しかも努力家だしね」と奏音も笑う。
「おぉ〜、めっちゃ褒められてる!」凛がニヤニヤしながら言う。
「まぁでも、陽菜なら本当に大丈夫でしょ。私たちもついてるし!」
「ありがとう、みんな」
私は、ふっと空を見上げた。
もうすぐ、社会に出る。
ここからまた、新しい世界が広がっていく。
でも、私は一人じゃない。
支えてくれる人がいる。
そして、私も誰かを支えていきたい。
——未来が、楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます