第27話 誕生日の夜に

 藤原家を出たのは日が暮れた頃だった。夕食ができるまで部屋で待っていてほしいと渚咲にお願いされ、手伝おうとしたが、自室で待つことに。


 俺の誕生日のために何か用意してくれているとしたらここで、今、キッチンへ行くと良くない気がした。


 取り敢えず、渚咲に呼ばれるまで自室で勉強しているとベッドの上に置いてあるスマホから音がし、椅子から立ち上がり、画面を見た。


 胡桃か海人かと予想したが、あまり連絡したりしない彩音からだった。


 「ちょっとお話ししよー」とメッセージが来ており、電話をかけると画面に彩音が映った。こちらもビデオ通話に切り替えると彩音は手を振った。


『ハピバ、亮平』


「ありがと。嬉しいけど、映す角度変えてくれない?」


『なんで?』


 キョトンとした顔をしているが絶対にわざとだ。際どい服着て、ちょっと見下ろした感じの角度にしている時点で。


「わかっててやってるだろ」

『ん~何のことやら……あっ、もしかして亮平くんは胸の────』

「言わなくていいから!」

『別にいいじゃん。私と亮平しかいないんだし、言っても問題なし』

「恥ずかしさゼロかよ……」


 そう言えば、今思い出したが、彩音は中学の3年間、誕生日にはメッセージか、直接祝ってくれたっけ。


『ケーキ、食べた?』

「食べてない」

『誕生日なのに?』

「誕生日だからと言ってケーキ食べる決まりないし」

『ふーん……藤原ちゃんからは祝ってもらえた?』

 

 なぜ藤原の名前が出てきたのかわからないがうんと答えると彩音は「へぇ~」と言ってニヤニヤしていた。  


『亮平はさ、最近藤原ちゃんと仲いいじゃん』

「まぁ、そう、だな」

『藤原ちゃんのこと好きとかはないの? 友達じゃなくて恋愛的な意味で』

「恋愛的…………恋愛的な意味の好きってどういう好きなんだ?」

 

 渚咲のことはもちろん好きか嫌いかだったら好きだ。けれど、その好きが友達として、異性として好きなのかどうかなんてわからない。


『ふふっ、私にそれ聞く~? 恋愛したことないからわかんないけど、これが恋じゃんって思ったら恋じゃないかな?』

「ふわっとしてるな……」

『定義とかないからしょうがないじゃん。私的に恋愛って気付いたらその人のこと考えて、会いたいな、守りたいな、ずっと一緒にいたいなって思えるならその人のこと好きだと思うんだよね』


 気付いたらその人のことを考えて、会いたい、守りたい、ずっと一緒にいたい……か。


『まっ、私の話より彼氏いる胡桃に話聞いた方がいいかもね』

「…………ありがと、彩音。参考になった」

 

 お礼を言うとコンコンと音がし、俺はスピーカーと画面をオフにした。


 彩音が何か言っているが今はオフにしないと渚咲が家にいるとバレてマズイ。


「渚咲?」

「すみません、誰かとお話し中でしたか? 準備ができたので呼びに来ましたが……」

「ううん、大丈夫。すぐに行くから先に行ってていいよ」

「わかりました。では」


 渚咲が下へと降りていくとすぐにスマホを手に取る。


「ごめん、彩音」

『ん? いいよ~。お母さんに呼ばれたの?』

「お母……あっ、うん、そう、お母さんに」

『そっか。じゃ、そろそろ夕飯だからまた学校で。改めて亮平、誕生日おめでと』

「ありがと」




***




(藤原ちゃんの声……だったよね?)


 亮平との電話が終了した後、私はベッドに仰向けになって寝転ぶ。


 突然、画面が暗くなったけど、隠すことだったのか。藤原ちゃんといることを隠す必要なんてない気がする。仲がいいのは知ってるし遊びに来ていて一緒にいると言えば……いや、けど、ビデオ通話で映った背景は見た感じ自分の部屋。外ではない。


 となると……家? 家に連れてきていることが恥ずかしくて隠した?


 その可能性はなくもないけど、納得できない。何か……私が知らないことがある気がする。


 他人のことなんてどうでもいいのに何でだろうか。気になってる自分がいる。


 まさか私も亮平のことが……いや、ないない。絶対に。一緒にいて楽しいけど恋愛感情全くないし。


 本人に聞いたらわかるかもしれないけど、隠してるみたいだし、暫くは反応見て遊ぼうかな。




***




「おぉ、豪華だな」


 リクエストした通りに夕食のメニューにはハンバーグがあった。1番驚いたのはハンバーグにデミグラスソースがかかっていたこと。普通ならケチャップをかけそうだが、俺の好みであるデミグラスソースをかけている。


 もしかすると俺の分をたまに作っているから俺の食の好みを把握しているのかもしれない。そう思うとちょっと嬉しい。


 ハンバーグから目線を上にやると壁にはバルーンでハッピーバースデーと飾りつけされていることに気づく。


 料理もやって飾りつけまでやってくれて忘れられそうにないほど渚咲が頑張ってくれたことを思うと泣きそうになってきた。


「これは絶対に忘れられないな……」


 記念にと食べる前に飾りつけを背景に渚咲が作ってくれたものをスマホで撮る。


「亮平くん、私が撮りましょうか?」

「いや……ん、そうだな。一緒に撮ろう」

「はいっ、任せ…………? 一緒に、ですか?」


 渚咲は自分のことを指差すので、俺はコクりと頷く。


「今年の誕生日は渚咲がたくさん頑張ってくれたからそんな渚咲と一緒に撮りたい」

「!」


 特におかしなことは言っていないはず。だが、渚咲の様子がおかしくなってしまった。耳も顔も真っ赤で、口をパクパクさせている。


(金魚?)


「渚咲、大丈夫か?」

「! だっ、大丈夫です。一緒に撮りましょう」

 

 彼女はスマホを用意し、ソファに2人並んで座るが渚咲は一緒に映るというのに遠い位置に座っていた。


 いつもなら触れ合うぐらい近いところに座る彼女だが、今日は離れて座っている。


「そんなに遠いと写らないと思うけど……」

「! そ、そうですね、もう少し近づきます」


 彼女は少しずつ俺の方へ寄ってきてスマホを持った手を伸ばす。


(近づきたくない……! もしかして、俺、変な匂い漂わせてる?)


「亮平くん? 撮りますよ?」

「あっ、うん」


(そうでなければいいけど……)


 写真を撮り、夕食を食べた後は渚咲の作ったケーキを食べた。


 渚咲からたくさんのプレゼントをもらい幸せすぎた1日。明日、何か嫌なことが起こるんじゃないかと思うほど……。


「美味しかった…………」


 今日はお風呂に入ってすぐに寝ようとしたが中々寝れず2階のベランダに出て今日の出来事を振り返る。すると、ふにっと頬をつつかれた。


「ぷにぷに……」


 つつかれながら横を向くとそこにはイタズラな笑みを浮かべた渚咲がいて、目が合うと微笑んだ。


「亮平くん、少しお話しませんか?」

「…………いいよ。寝れそうにないし」

「ありがとうございます」


 彼女は横に並ぶと空を見上げ、そしてこちらへ体を向けた。


「亮平くん。夏休み、どこに行きますか? この前話していた遊園地か水族館にします?」

「渚咲はどちらも行きたいんじゃないか? ならどっちも行こう。遊園地も水族館も」


 そう言って俺は多分渚咲と一緒にいる時間を増やしたいだけなんだと思う。彼女との同居生活がもうすぐ終わることが寂しくて少しでも一緒いる時間を……。


「また夏休みの楽しみが増えました。亮平くん、今年の夏はたくさんの思い出作りましょうね」

「そうだな」

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