第5話 なでなでタイム
クレープを食べ終わった後、今日もお母さんの帰りは遅いため家に帰って夕食を作ることになった。
だが、俺も藤原もクレープを食べてお腹がいっぱいなため作るだけにして食べるのはもう少し後にすることに。
夕飯の支度が終わるとソファに座って藤原が貸してくれた小説の続きを読む。
すると隣に藤原が座り、彼女は何かの紙を真剣な表情をして見ていた。
何をそんなに真剣にと思い、本に栞を挟んでから聞いてみることにした。
「何見てるんだ?」
「この前のテストです。とてもじゃありませんが親に見せることのできない点数だと思いまして」
彼女は紙をこちらに向けて俺に見せてくれた。入学して初めて受けた国語と数学、英語のテスト。中学で習った範囲から出され、英語が特に難しかった。
彼女の点数を見る感じどれも90点以上。俺なら喜ぶし、親や友達に見せて凄いだろと自慢しているだろう。
一体、これのどこがいけないのだろうか。親に見せたら驚くと思うけど。
点数の横に学年順位が書かれており、それを見ると1とあった。
「学年1位って凄いな」
「そうですかね。1位であっても点数が良くなければあの人は褒めてくれませんし、私の頑張りを認めてはくれない。私はまだ頑張らないといけないんです」
話を聞く限り藤原は自分のためじゃなく誰かのために勉強を頑張っている。頑張っていることは凄いし、尊敬するが、少し心配だ。
「凄いな、藤原は。応援するけど頑張るのはほどほどにな。頑張りすぎはよくないから」
気付いたら俺の手は彼女の頭の上にあり、優しく撫でていた。
小さい頃、頑張った時にお母さんにこうしてもらうことが俺は好きだった。頭を撫でてもらうと頑張って良かったと思える。
「藤原が褒めてほしい、認めてほしい人は俺じゃない。けど、俺は藤原のこと、褒めるよ。1位なんて簡単に取れるものじゃない、藤原は頑張った。凄いよ」
「あ、ありがとうございます。褒めてもらうことなんてあまりないので八神くんに褒めてもらえて嬉しいです。頑張ったって思えました」
「それなら良かった」
頭から手を離すと嬉しそうにしていた藤原の表情が少し暗くなった。
表情の変化に気付いてしまった俺が口を開こうとすると藤原は顔を真っ赤にした。
「あ、あの……もう少しだけ頭を撫でてもらうことはできますか?」
「も、もう少し?」
「はい……今度は褒めなくていいです。普通に頭を撫でるだけでいいので」
藤原は俺の手を取り、上目遣いでお願いしてくる。その姿は撫でてほしそうにする猫のようで、とても可愛らしかった。
甘えてもいいって言ったのは俺だし、嫌と断れない。
手を伸ばし、先ほどと同じように彼女の頭を撫でると彼女の表情がふにゃりと緩む。
「こ、これでいいか……?」
「えぇ、とてもいいです」
「…………答えなくてもいいんだけど、藤原って彼氏いるのか?」
「いると思います?」
「告白されている噂は聞いてる。けど、結果は知らない」
「そうですか。告白は全て断ってますよ。知らない人と付き合いたいとは思いませんので」
冷たく何を考えているのかわからない表情。学校にいるときの顔だ。
となると笑顔を見れるのってかなりレアかもしれない。
「八神くんは彼女さん、いるのですか?」
「影の薄い俺にいると思うか?」
「…………八神くんはカッコいいのでいそうです」
「! い、いないから。俺にカッコいい要素なんてないと思うけど」
「ありますよ。困ってる人を助けるところ、料理できるところとか。そうです、私も八神くんを褒めます!」
藤原は顔をグイッと近づけると手を俺の頭に乗せて撫で始めた。
「八神くんも今日は頑張りましたね。お手伝いもお料理も頑張っていました」
「…………あ、ありがとう」
「ふふっ、なでなでタイムですね」
何だろう。頭を撫でるより頭を撫でられる方がドキドキする……。
「私も八神くんに甘えます。なので八神くんも私にいっぱい甘えてください」
甘えるというのは俺から言った言葉だ。けれど、こうなるとは想定してなかった。
(約3ヶ月、俺の心臓持つかな……)
***
「おっはよ! りーくん!」
「おはよ、胡桃」
席へつくといつものように明るくやって来る胡桃は朝というのに元気だ。俺は昨夜、遅くに寝たため眠く、目がまだ開いている感じがしない。
「海人もおはよ。昨夜は盛り上がったな」
「だな、亮平の戦い方上手すぎて負けるとは思わなかったわ」
俺と海人だけしかわからない話をしていると胡桃が気になるのか間に入ってきた。
「えー、何々? ゲームの話?」
「この前、教えたゲーム。胡桃、前に進むんじゃなくてずっと後ろに下がって中々攻略できてなかったやつ」
「あっ、あれね……って、その恥ずかしい話はやめてよ~」
胡桃はそう言って、海人の肩をポカポカと叩く。
「今日の夜もやろうぜ」
「お父さんが帰ってくるまでな」
「亮平父、ゲームには厳しいんだっけ?」
「あぁ。やってたら即ゲーム取り上げ」
「厳しっ! りーくん、成績いいからそういうのなさそうだけど」
「良くてもな」
今日は確かお父さん、帰ってくるの遅いって言ってたし、長めにできそうだな。
***
俺と藤原、お母さんと3人で夕食を食べてお風呂上がりの後、リビングでテレビゲームの準備をし始めると後ろから視線を感じた。
凄い見られてるなぁと思いつつ、準備しながら海人とメッセージのやり取りをしているとふんわりとしたいい匂いがした。
「八神くんはゲームがお好きなんですか?」
「!!」
後ろにいることはわかっていたが、急に後ろから声をかけられたので驚いた。
「まぁ、楽しいから好きだな」
「そうですか。私、ゲームをやったことがないので少し気になります。見ていてもよろしいでしょうか?」
「いいけど……面白くはないぞ?」
「ふふっ、面白いかどうかは見てみないとわかりません」
藤原にじっと見られてゲームするのは何だか緊張が高まるが、ダメだという理由はない。ということで、俺は海人と電話を繋げてゲームを始めた。
『ナイス、亮平』
「海人の援護があったからだ」
今やっているゲームは戦闘系で、最初、藤原は後ろで大人しく見ていたが、いつの間にか俺の隣に移動している。
集中できなくなるわけではないが、そんなに気になるのか……?
『なぁ、亮平。藤原さんとはどうなんだ?』
「どうって……」
(本人が隣にいるんだが……)
スピーカーで話していたため、当然、彼女の耳には入っている。そのため海人の言葉を聞いた彼女の頭の上にははてなマークがあるかと思ったが、ゲームに夢中だった。
『話すことできたか?』
「まぁ、少し」
『それは良かっ────』
「後ろから狙われてますよ」
(!!)
ヤバイヤバイヤバイ。スピーカーにしたのは間違いだった!
隣を見ると藤原はペコペコと頭を下げて、口パクですみませんと言っていた。俺が悪いので、彼女の頭を優しく撫でながら大丈夫と言った。
『今の声、どっかで聞いたことあるんだけど』
「! どっ、動画だ!」
『動画?』
「あぁ。近くにお母さんがいてさ、心霊の動画を見てるんだ」
本当はキッチンにいて何か作っているが、ここはこういう嘘をつくしかない。
『ふーん、狙われてるね……』
嘘がバレバレな気がするが何とかなり、ゲームを再開した。
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