第25話 チームプレイ
3回表 日本チームの攻撃。
7番ファースト明日香ちゃん。8番レフト瑠衣ちゃん。9番ライト加奈ちゃんの3人は、ケイトちゃんの球に触れることもなく三球三振に終わった。
「クソォォ――ッ!」
怒りにまかせて明日香ちゃんは砂浜を殴りつけた。
「すまねぇ、真琴! 初心者の俺たちが足引っ張ってるよな?」
悔しさを露わに砂浜にドカッと座り込んだ。
おそらく、ケイトちゃんに手加減して投げられ、それに触れることすらできず三振したことが堪えているのだろう。
真琴は笑顔で手を差し出した。
「そういうのいいから。仲間でしょ、私たち。それに、自分がダメでも他の仲間を信じて。他のみんなもあなたを信じてるから」
「ああ、わかったぜ……キャプテン」
キャプテン真琴の言葉に、みんなが一喜一憂している。
本当に良いキャプテンになった。さすがうちの娘。
日本チームの攻撃が終わり、みんなが守備についていく。
そんななか青子は瞳をキラーンと光らせる。
「見ててね、パパ。次のぼくの打席、秘策があるから。絶対にホームラン打ってあげるからねっ☆」
自信満々な青子に不安を抱く。
慢心したときの打率は相当低いから。
3回裏 アメリカチームの攻撃。
真琴は、8番 9番 1番 を三球三振にうち取った。
4回表 日本チームの攻撃。
1番 青子 2番 光 3番 鳴は 三球三振に終わってしまう。
秘策が不発に終わり青子は ベンチに座りうなだれていた。
「ゴメン……パパ、秘策失敗……」
「どんまい、青子」
4回裏 アメリカチームの攻撃。
真琴は2番3番を三振にしてツーアウトにまで追い込んだ。
とうとうアメリカチームのエースで4番 ケイトちゃんに打順が回ってきた。
バッターボックスに入り、バットを構える。
「さぁて、真琴。2打席連続ホームランを打たれる覚悟はできた?」
挑発に介せず まぶたを閉じて精神統一をしていた。
その姿にケイトちゃんはふふっと微笑んだ。
(集中しているわね……真琴。さっきは調子に乗って、このワタクシにド真ん中に投げてきたけど……今度はどこかしら? ワタクシの苦手な内角低め? それとも逆に外角低めかしら? またド真ん中に投げる勇気はないはず……なら……)
ズバ―――――ン!
「へっ?」
「 ストラ――イク! 」
ド真ん中に決まった。
茫然と立ち尽くした。
(ま、まさかっ、ホームランを打たれたあとに、またド真ん中……! ありえない……! いえ、わかっていたのに失念していた……! 真琴が……もの凄く負けず嫌いなことを……)
「どう、ケイト? 私の球は」
さっぱりとした良い顔で聞くと、顔を引きつらせ――。
「ふ、ふん。まあまあね……。褒めてあげる……」
「ありがとう、ケイト。でも、まだまだこれからだよ」
宣言どうり、さらに球威の上がった豪速球が、ド真ん中に ズバ――ンと決まった。
「 ツーストライク! 」
(ま、またド真ん中……! こいつ……!)
ラスト3球目―――。
今日、最高の球がド真ん中に決まった。
「 ストラーイク! バッターアウト! スリーアウトチャンジ! 」
「くッ!」
空振りしたケイトちゃんは悔しさを露わにした。
(今度は、くるとわかっていたのに打てなかった……! 今の一球……ワタクシを超えていた? いいえ、ありえない! 真琴なんかに……!)
ベンチに戻る真琴を、ビシッと指差した。
「いまの三振は油断しただけよ! 次はこうはいかないんだからねっ!」
「わかってる。そうじゃないとつまらないから。次はもっと強い球を投げてあげるから覚悟してよね」
荒々しい笑顔はケイトちゃんを三振にうち取った嬉しさからではなく、ケイトちゃんとまだまだこれから試合ができる嬉しさからだろう。
歯をギリギリと鳴らして頬を紅潮させる。
「お、お調子に乗って……! まあ、少しは認めてあげるけど……」
「ありがとう、ケイト。あなたに褒められるのは嬉しいよ、昔からね」
満面の笑顔でつげられ、さらに頬を紅潮させる。
「ぐっ! だ、だけど真琴、これからのあなたの全打席、全投球、すべての活躍はワタクシが潰してあげる!」
「じゃあケイト、私からも―――」
ライバルを熱い瞳で捉え――。
「今日あなたから、絶対にホームランを打ってみせる!」
バチバチと熱い火花が散った。
5回表 日本チームの攻撃。
先頭打者は、日本チームのエースで4番の真琴だ。
バッターボックスに立つと、ベンチから声援が飛んだ。
「まこ姉ぇ――っ! がんばれぇ――っ!」
「真琴姉さん! あの球は姉さんしか打てないからー!」
「姉貴、あたしの分も頼む!」
妹たちからの声援を受けてバットの先を向ける。
「全力で打つから、全力できなさい!」
「いいわ……。打てるものなら、打ってみなさい!」
ズバ―――――ン!
「ボール!」
ケイトちゃんの放った球は、デッドボール寸前のギリギリの球だった。それを微動だにせず見送った。
「あら、避けなかったの? それとも、ビビって動けなかっただけ?」
煽るケイトちゃんを、真琴は無言で見つめる。
(ふふん、いい気迫。ホレボレするわ。でも、そんなあなたをうち取って、あなたはワタクシに超ホレボレするのよ!)
大きく振りかぶり、渾身の一球を放つ。
ガギィ――――ン!
ボールは弧をえがき、砂浜に書いたホームラン線50cm手前に落ちた。
そのままコロコロと転がり、ホームラン線を越えた。この場合、エンタイトルツーベースヒットとなり真琴はニ塁に進むことになる。
「くっ、真琴ォ!」
二塁へと歩く真琴を睨むと、澄まし顔でニコっと笑う。
「どう、ケイト。私やるでしょ?」
「舐めていたわ。次こそ、全力の全力で投げてあげる……!」
「楽しみ♪」
日本チームの攻撃。
5番バッターの美鈴ちゃんがバッターボックスに立った。
ここでヒットがでれば二塁の真琴がホームに戻り、一点を加え同点にすることができる重要な場面。
僕は慎重に考え、テレパシーで指示を伝える。
――――。
「 ストラーイク、バッターアウト! 」
僕の指示に従った美鈴ちゃんは三球三振に終わってしまう。
《ごめん……。また見当違いの指示をしてしまって……》
《いいんですよ、監督。あたしがいまこの力に怯えずプレイできているのは、監督のおかげなんです。感謝だらけで怨むことなんてまったくないです。どんな結果でも監督への信頼が揺らぐことはありませんから。それは、テレパシーを使えるあたしたちなら、心で通じ合ってわかっているはずです》
《そうだね……》(だから、つらいんだけどね……)
7番バッター明日香ちゃん、8番バッター瑠衣ちゃんを、ケイトちゃんは打たして捕る戦法でアウトにし、5回表 日本チームの攻撃が終わった。
「ケイト……全力でド真ん中に投げなくなったね?」
ベンチで見ていた鳴が気づき、隣にいる美佳子ちゃんが反応した。
「それはそうだよ、鳴。相手もバカじゃないし。6番から9番まで ほぼ素人だってバレているはずだよ。だから体力を温存しているんだと思う」
それを真琴が肯定する。
「うん。あの砂場で投げるのは、かなりの体力を使うわ。とても9回まで全力で投げることは無理だと思う。私もケイトも体力を温存しないと最後まで持たない。だからみんな、守備はまかせてもいい?」
キャプテンからの熱い信頼に、みんなは応える。
5回裏 アメリカチームの攻撃。
真琴は5番 6番 7番を打たせて取る戦法でアウトにした。
守備も危なげだが、なんとかこの回を0点に抑えることができた。
ベンチに戻る真琴に、鳴が近付いていく。
「……真琴姉さん……。やっぱりみんなに守備をまかせるのは、まだ早いと思う……」
表情の硬い鳴に、真剣な表情でつげる。
「鳴……。早いか遅いかの問題じゃないよ。私がみんなを信じるか信じないかの問題なの。私はみんなを信じる。その結果が失敗に終わっても、私は誰も責めないし、誰も誰かを責めたりはしない。私はこのチームを信じてる……」
微笑む真琴に、鳴の堅い表情が笑顔へと変わる。
「……うん、そうだね。鳴も、みんなと真琴姉さんを信じる……」
真琴がベンチに戻ってくると、野球初心者の 明日香ちゃん 瑠衣ちゃん 加奈ちゃん 美佳子ちゃん の4人が集まってきた。
明日香ちゃんは90度 頭を下げる。
「すまん、真琴! 俺たちがヘタなばかりに、おまえに負担をかけてるよな?」
「お姉様、ごめんなさ――い! わたし、ちょっとミスしてしまいましたー! お姉様の足を引っ張っていますよね?」
「はうー。わたくしもミスしてしまいましたぁ、ごめんなさい……」
「ミスしないよう努力する。真琴さんが安心して投げられるように努力する」
明日香ちゃんに続いて 瑠衣ちゃん 加奈ちゃん 美佳子ちゃん が反省の弁を述べる。
4人は自分たちのせいで真琴が集中して投げられないと思い、反省して集まってきていたのだ。
穏やかに微笑み、両手で、4人を円陣を組むように覆った。
「……ありがとう、みんな。みんなが私のことをキャプテンとして信頼していてくれるから、いま投げられるの……。誰かがミスしたからって投球に全然影響しないよぉ……」
瞳には涙がきらめている。
「……私は、このチームのキャプテンになれてよかった……。みんなに信頼されてすっごく嬉しい……。だからみんな、楽しんでやろうよ。全力でプレイしようよ。どんな結果でも、最後はみんなで笑えあえるように……」
両手で覆われた4人は、真琴の濡れる瞳を見つめてうなづいた。他のメンバーも。ついでに僕も。
「よしっ! 青子 光 鳴 美鈴 集まって! 円陣組んで、気合い入れ直すわよ!」
キャプテン真琴の号令と共に9人は肩を組み、円陣を組んだ。
そして―――
「 みんなァァ―――――ッ! 全力でプレイして、最後まで楽しんで試合をするわよ―――ッ! 」
おおおおおおおおおおおおおおッ!
束ねた咆哮が、真夜中のビーチに響き渡り、心地いい感覚に陥らせた。
その光景に、微笑ましくなると同時に、僕もその輪に加わりたいと強く願う。
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