恋列車

浅野エミイ

プロローグ

「東京の海は狭いなぁ……」

 六月、曇天。薄い暗闇の中で、畠中由紀はつぶやいた。黒いショートカットが、ささやかに風になびく。

 仕事が休みになると、一人暮らしの家から少し遠めの海浜公園で、ただ海を見て過ごす。静かに打ち寄せられる波。由紀は海が好きだった。

 由紀は岩手県北宮古市出身だ。北宮古は海岸線がどこまでも続いている。海を見ると落ち着く。仕事や人間関係の嫌なことを忘れるには、海を眺めて北陸の小さな街を思い出すのが一番だ。

 ポツリと頬に何かが当たった。――雨。とうとう降り出したか。由紀仕方なく海の見える場所から、近くの商業施設へと急いだ。


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