第40話 days gone by(9)

 ――『ストラ』の配下に入ってからのホランドは。

 変質していく自らのグループと仲間達を眺めてきた彼は。その上で自らの去就を決した。


「ゴードン。あんたの属す先は『親父』か? それとも『ストラ』か?」


 日曜午前の教会。彼は、前触れなく長椅子の隣に座ってきた。


「……どういう意味かな」


 そう返しながらも――この男は人を良く見ている、とゴードンは思った。


「――同じことを二度言わせるな。一応今のあんたは俺のグループの一員だ。リーダーの質問には答えてもらう」


 ゴードンは天井を仰ぎ見た。アーチ状のそこには、規則的で緻密なフレスコ画模様がある。彼が来た意味は、おおよそ察する事は出来た。


(私をここで見つけたから、という事ではない。彼は最初からここで聞くつもりだった。神の前だからだ。私の信仰を、これまでの中で本物と睨んだ)


 神の前で偽りは言えない。ゴードンは嘆息した。


「……『ストラ』だ。私は神と彼等に救われた」

「じゃあ伝えておく。俺は『ストラ』の中で上に行く。あの親父よりもだ。そのための『仕事』を寄越せ」


 ホランドの視線は、正面の十字架に張り付けられた男の像に向けられている。本来彼へ罪の許しを乞う側――ゴードンがまさにそうだ――でありながら、挑むように。

 ホランドが『ストラ』の仕事をこなしながら、何かを考えているのはゴードンも知っていた。元々の、曲がりなりにも人を助ける側から、人を食い物にする側へ。


「――私に与えられている仕事は君のフォローだ」


 その上で、ホランドは選んだのだ。父親よりも大きな怪物になると。ゴードンは視線を横に向けた。神を睨み続ける、ホランドの横顔が見える。


「その利益が『ストラ』のそれに反しないならば、止める理由は無い」


 無言で、ホランドは頷き立ち上がる。そのまま、教会を出て行った。

 ――数日後。新たな『仕事』が、ゴードンからホランドへ伝えられた。


「『ストラ』に反する企業の関連人物だ」


 そう伝えたゴードンに、ホランドは頷く。それは単純な人殺しゲームの対象、というだけではなく『ストラ』の意向に関わる仕事――と言う事だった。


「ターゲットの名は、クチナ=ホオズキ」


 ――以上が、この夜に至る彼らの顛末だ。

 この世界は普通、道を踏み外せば警察などの大きな力によって、潰されるか元の道へ戻される。だが、仲間のために道を踏み外した彼等は、運悪く巨大な怪物の庇護の下、道を戻る事も無く、己も怪物にならんと欲した。

 ――そうして、ひたすらに外れて行った彼等は。その先で本物の怪物に出会った。


 ――要約すれば、そのような事だ。

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