第4話 days gone by(1)
「何だ、先客か」
ミドルスクールで
校舎裏の隅でパンをかじっていたアンディに上から声が降ったのは、そんな時だ。
「ほ、ホランド……君」
やって来たのは、同学年の中でいわゆる不良として、スクールカーストの枠外にいる存在だった。彼はアンディの事を気にする風も無く、彼の横1mほどの場所へ腰を下ろした。
「邪魔するぞ」
「あ、ハイ……」
アンディを気にもせずチャイニーズボックスを食べ始めるホランドという男は、その実父親が州議員で多数の企業とも繋がりを持っているという話は聞いていた。
そのため、彼はサボりや喧嘩を繰り返す不良として学内のグループのどこにも属さないにも関わらず、決して誰からも『舐められない』存在だった。
それどころか、彼の父親に取り入ろうとする者の子供が何とか近付こうとする。
「カフェテリアはカスどもがウザったくて仕方ねえんだよ」
アンディの疑問に先んじるかのように、ホランドは呟いて
校舎裏に咀嚼音だけが響く数分が過ぎた。
(か……会話が無い……)
アンディとしては、一口ごとに薄氷を踏むような時間だった。何せ相手は不良である。上位層からの、大人たちから問題にされないラインで行われるイジリという名の迫害でなく、ストレートな暴力が飛んでくる恐れがある。
だが。むしろその無言が良かった、という事はすぐ後に知った。
「お前はうるさくなくていいな。ここ、飯時にはまた来るぜ」
食事を終えたホランドは薄く笑って腰を上げた。背中越しに軽く手を挙げて歩き去る。
「あ、ハイ……」
結局。来た時と同じ台詞をこぼして、アンディはズレかけた眼鏡でその背を見送った。
それから。(サボりもあるので)数日に一度のペースで、ホランドは昼に校舎裏を訪れた。会話は無い方が多かったが、稀に会話めいた事をする時もあった。
「あー、お前確かにターゲットにされそうだな」
「う、うう……まあ、黙ってたら飽きてどこか行くから……」
その日は、アンディの学内における扱いについての話になった。
「はっ、情けないヤツだな」
「仕方ないよ。僕は特別、頭がいい訳でも得意なものがある訳でも無いから」
アンディの答えに、はぁ~? という感じの顔をしていたホランドだったが――ふと、視線を外して表情を素に戻し、嘆息した。
「まァ――だが、俺よりはマシかもな」
意外な答えに思えた。アンディの疑問の視線へ、ホランドはうざったそうに手を振る。
「所詮俺が好き勝手やれてんのは、クソ親父の威光だ。俺は名士ヅラのあの野郎が嫌いだからこうしてるが、それでクソ親父の力を余計に感じるんだから世話が無い」
「それは……」
そうなのだろう、とアンディは思った。ホランドの父親はこの街で生きる人間――子供はともかく、大人にしてみれば無視する事は不可能な存在だ。
「お前は、お前だけでクソ共の攻撃に耐えてる。俺に擦り寄る事も無いしな」
不貞腐れたように鼻から息を吐いて前を見つめるその姿は、アンディには初めて年相応の少年に映った。へらり、とアンディは笑う。
「そ、そんな立派なもんじゃないよ、僕は。他に方法が無いだけさ」
そうして昼食を終える彼を、ホランドは壁に寄りかかって見ていた。
「……何人か、外れ者とつるんでる。この学校以外の奴らもいるがな。パシリ扱いは変わらんかも知れないが、集まりに来るか?」
次の教室へ行こうと立ち上がった所にそう言われ、アンディは思わず振り返る。
「ぼ、僕を? 君のグループに?」
相手間違えてないか、という視線にも、ホランドは姿勢を変えず返した。
「軽い仕事も始めてみたくてな――おい引くな引くな、法に触れるヤツじゃない。ともかく、多少でも人数は欲しいって訳だ」
「僕みたいなのでも?」
「お前みたいなのでも、だ。雑用くらいはこなせるだろ? ハナからクソ親父目当てじゃないのは、あまりいなくてな」
アンディは――数日迷ったが、結局それに頷いた。
このまま学校の上位層に気晴らしのターゲットとされ続ける生活より、不良の集まりでも仲間の一員として認められる誘惑が勝った。もちろん、ホランドといればターゲットにもされなくなるだろう、という打算もあったのだが。
「ところでお前、名前なんだっけ」
「い、今さら?」
そうして、アンディはホランドたちのグループの一員になったのだった。
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