第3話

ピピピピッピピピピッピピピ⋯⋯。


バンッ。


―――――。


ピピピピッピピピ⋯⋯。


「んー⋯⋯」


カチッ。


「⋯お嬢、お嬢。起きてください。朝ですよ」


「んー⋯。もう朝ー⋯?」


「朝です。支度してください」


「⋯んー」


亀のようにゆっくりと、ベッドから体を起こしていく。


だけど、まだ目は閉じている。


というか、開かない。


「もうすぐ朝食の準備ができるので、それまでに支度し終わっといて下さいね」


「⋯はーい⋯」




目が開けられるようになると、支度を始めた。


だけど、スピードは遅い。


ちょうど支度が終わった時、霞天さんの声が聞こえてきた。


「お嬢!朝食の準備ができましたよ!」


「はーい!」


そう言い、皆のところへ向かった。


「海、おはよー!」


「お嬢!おはようございます!」


「皆、おはよー」


「じゃあ、食べようか。⋯いただきます」


「いただきます!」


私たちの家の朝食はパン、ではなく和食。


パンはほとんど出てこない。


空たちは、朝なのにご飯をおかわりしている。


朝からよく食べれるなぁ⋯。


私以外全員、ご飯をおかわりしたはずなのに、なぜか私が最後に食べ終わった。


「ごちそうさまでした」


「お嬢、片付けますね」


「ありがと」




学校へ行く用意が終わると、仏壇の前に座る。


今日は何もありませんように。


「お母さん、今日も見守っててね」


何かあったら助けてください。


「海、行くぞ」


「はーい。⋯いってきます、お母さん」


今日のお弁当係である空の補佐、風羽ふうさんからお弁当を受け取り、靴を履いた。


「お嬢、坊ちゃんたち。いってらっしゃいませ」


「いってきまーす!」


⋯ミーンミンミンミン⋯―――。


外に出ると、蝉の鳴き声が聞こえてきた。


「もう夏だなぁ」


「もうすぐ夏休みだ!」


太陽の日差しが降りそそぐ中、晴たちはワイワイとはしゃいでいる。


だからか、3人とも少し汗をかいている。


学校に到着すると、いつも通り、周りの人たちが私たちから遠ざかっていく。


そして、遠くの方で女子たちが騒いでいる。


宇宙たちと別れると、珍しく紅葉以外の人が話しかけてきた。


「お、おはよ、青葉」


「あ、蓮桜くん!おはよ。晴がいる時に話しかけてくるなんて珍しいね」


「そうだな。ちょっと勇気出してみた」


蓮桜くんはチラッと晴の方を見て、そう言った。


すると、


「お前、どっかで見たことあるような⋯⋯」


晴がジーッと蓮桜くんの顔を見ている。


「そりゃ見たことあるでしょ。同じクラスなんだから」


「いや、違うんだ。前から思ってたんだよ。どっかで見たことあるなって」


「そうなんだ」


「じ、じゃ、俺先に教室行くわ」


「え?あ、うん」


蓮桜くんはなぜか急に慌て出し、階段を勢いよく上っていった。


「あれ?今の水川?」


「あ、紅葉」


「おはよ、2人とも」


「おはよ」


「水川と何話してたの?」


「大した話はしてないよ。だけど、晴が蓮桜くんにどっかで見たことあるって言ったら、急いで教室の方に行っちゃったの」


「…それ、何かあるんじゃない?」


「え?そうかな⋯?」


「うん。何か怪しい…」


「でも、晴のことが怖くなっちゃっただけかもしれないよ?」


「あぁ、それもありえる」




教室に着き、蓮桜くんの席を見てみると、机に伏せて寝ていた。


自分の席に着席し、鞄の中の物を机の中に入れていった。


すると、手が何かに当たった。


カサッ。


⋯なんだろ。


⋯⋯紙⋯?


折りたたまれた紙を広げてみると、紙には文字が書かれてあった。


――あなたに伝えたいことがあります。昼休み、体育館に来てくれませんか?待ってます―――


⋯私に伝えたいこと?


その前に、この手紙は誰からだろう⋯。


名前は、どこにも書いていない。


んんー⋯…。


行った方がいいのかな?


⋯紅葉に、相談してみるか。




手紙のことを考えているうちに昼休みとなり、紅葉と屋上へ行こうとすると、晴に呼び止められた。


「何?」


「一緒に食堂で食べないか?」


「え、なんで?」


「…えっと、おやじが⋯⋯」


「おじさんがどうしたの?」


「⋯説明は食堂でするよ。だから一旦、食堂に来て」


「え、ちょ、ちょっと待って。⋯それだったら、屋上で話してくれない?」


「分かった。空たちに伝えてくる」


「ありがと」




先に紅葉と屋上に着き、しばらくして3人がやって来た。


3人の姿を見て、屋上にいる人たちはザワザワし始める。


「で?おじさんがどうしたの?」


「⋯おやじが昨日、もしかしたら海に何かあったかもしれない、って俺たちに言ってきたんだ。それで、傍で見守っててほしいって言われて」


⋯やっぱり、おじさんに気づかれてたか⋯。


「海。昨日何かあったのか?」


隠しておくつもりだったけど…。


「…んん⋯。⋯そうだね。前と同じことがあった」


「前と同じことって何?」


前に起きたことを知らない紅葉は、心配そうに聞いてくる。


「…トイレに閉じ込められたの」


「閉じ込められた!?…も、もしかして、食堂から教室に帰ってた時?」


「うん」


「で、でも、すぐに帰ってきたよね?」


「それは、すぐに出ることができたから」


紅葉はハテナを頭の上に散らして、そのときの状況を考えているみたい。


「海。なんで昨日言ってくれなかったんだ?」


「だって、空たち心配すると思って」


「⋯そうか」


「だとしても、言ってくれよ」


「ごめん、晴」


「そうだよ。言ってくれないと、余計心配になる」


「宇宙の言う通りだ。これからは、何かあったら必ず言ってくれ」


「⋯分かった。⋯じゃあ、早速だけど」


「何?」


机の中に入っていた紙を、制服のポケットから取り出した。


「これ」


「⋯紙?」


紙を広げて内容を見せると、


「これ!ラブレターじゃない?」


紅葉が目をキラキラさせ、興奮気味に言った。


「え、そうなの?」


「分からないけど、そんな感じがする!」


「私、体育館に行ったほうがいいのか分からなくて⋯」


「行ったほうがいいに決まってるでしょ!」


「まあ、そうなんだけど⋯」


「じゃあ、海。俺たちついて行くから、行ってみたら?」


「分かった」




お弁当を食べ終えると、紙に書いている通り、体育館へ向かった。


「俺たち、ここにいるから行ってきな」


「うん」


体育館の入口付近で空たちと別れ、中へと入っていく。


⋯あれ?誰もいない。


まだ来てないのかな?


体育館の中を歩き回ったり、体育館倉庫の中を見ていると、突然誰かに背中を押された。


「わっ!」


勢いよく押されて、体育館倉庫の壁にぶつかってしまう。


痛っ!


その瞬間、バタンッというドアの音が鳴り響き、辺りが急に暗くなった。


え、何が起きたの?


…ああ……。


⋯⋯体育館倉庫に、閉じ込められた⋯。


嘘ー⋯…。


さすがに、ここから出ることはできないよ⋯。


あ、空たちに⋯。


⋯駄目だ。


ここからじゃ声が届かないかも。


でも、


「だ、誰かーっ!」


助けを求めないと。


ドンドンドンッ…。


ドアを叩いてみるけど、返事はない。


だけど、クスクスッと笑う声が少しする。


空たちー⋯。


助けて⋯…。


しばらくすれば、晴たちが来てくれるだろう。


でも、暗い。


ほとんど周りが見えない。


ここにしばらくいるのは、怖い⋯…。


ドアにもたれて、うずくまってしまう。


早く来て⋯…。


すると、


「おい!海はどこだ!言え!」


「し、知らないっ」


「嘘はいけないよ?」


「⋯た、体育館倉庫です⋯」


「海っ」


晴たちの、声だ。


体育館倉庫のドアが、ガタガタガタッという音を立てて揺れている。


ガチャッ。


ドアが開く音がすると、体育館倉庫の中に光が差し込んできた。


「海!」


晴たちの姿を見て安心したのか、地面に倒れ込んでしまう。


「大丈夫か?」


「う、うん」


「立てるか?」


「⋯た、立てない。腰が抜けちゃったみたい」


「え、ど、どうしよう」


「晴、そこどけろ。…海、ちょっとごめん」


空はそう言うと、身体を抱きかかえられ、フワッと宙に浮いた。


「え…?」


お、お姫様抱っこ!?


「」さちょ、空っ。恥ずかしいって!ていうか、重いでしょ?だから下ろしてっ」


「立てないんだろ?」


「⋯も、もう大丈夫だよ」


「そんなわけないだろ。大人しく休んどいて」


「で、でも⋯」


「何も言わずに、兄の言うこと聞いとけばいいんだよ」


「⋯分かった」


すると、空が私から目を離し、私を閉じ込めた女子たちを見た。


「何で、こんなことしたんだ?」


「そ、それは⋯⋯」


「早く言えよっ」


「ちょ、晴。落ち着け」


「だって…」


「じゃ、続けて?」


「…この子に、む、むかついたから」


「ふーん。それだけの理由で?」


「ち、違います。⋯その、晴くんたちといつも一緒にいるから⋯」


「え、俺たち兄弟だよ?もしかして、知らなかった?」


「し、知ってます」


「じゃあ何で」


「⋯空くんたちを独り占めしてるみたいに見えたからです⋯」


「…独り占めねぇ。…理由は分かったけど、許されることじゃないから」


「ほ、本当にすみませんでした」


「もうチャイム鳴るし、教室に帰りな」


「は、はい。すみませんでした……」


女子たちはそう言い、走って体育館から出ていった。


遠くの方で、


「もう関わらないでおこうよ。殺されちゃう!」


という女子たちの声が聞こえてくる。




お姫様抱っこから解放されると、気になっていたことを聞いた。


「ねぇ、なんで犯人があの子たちだって分かったの?」


「それは、もう1つある出入口の方から作戦大成功だね、って言う声が聞こえてきて、体育館の中を見たら海がいなかったから」


「そうなんだ。皆、助けてくれてありがとね」


「また何か起きないように気をつけろよ」


「うん」


そして、私たちが教室に着くと同時に、チャイムが鳴る。


⋯あれ?蓮桜くんがいない。


どうしたんだろ?


蓮桜くんがいないなんて、珍しい。


遅刻したことも、休んだこともないし。


保健室、とか?




授業は、蓮桜くんが教室に来ることなく終わってしまった。


紅葉と他愛もない話をしていると、後ろのドアから蓮桜くんが入ってきた。


そして、なぜか疲れたような顔をしている。


心配になり、蓮桜くんに話しかける。


「どうしたの?大丈夫?」


「⋯ああ」


「体調、悪いの?」


蓮桜くんは答えずに、なぜか周りを見回している。


「…本当に、どうしたの?」


「⋯⋯実はさ、トイレに閉じ込められてたんだ⋯」


「え?な、何で」


また、空たち関係…?


「⋯海ちゃんと仲良くするからだ、って言ってた」


「わ、私?」


「⋯うん」


どういうことっ?


「何で、私?」


「え、海、分からないの?」


「え?」


「はぁ…、ほんとに海は……。…海は、晴くんたちと同じくらい人気あるんだよ?」


「…あはっ、いやいや、何言ってんのよ。そんなわけないじゃん」


「海って本当に、鈍感だよね」


「え⋯…」


そうなの…?


ちょっとショック……。


「⋯俺、しばらく青葉に話しかけないでおくよ」


「わ、分かった」


蓮桜くんはトボトボと自分の席に座りに行った。


…にしても、考えること皆一緒なんだな…。


それにしても、また今日も大変な目に合っちゃったなぁ……。

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