偶然、それとも(コウと由貴シリーズ)

麻木香豆

プロローグ

「――偶然。


 それは、思いがけない形で、あなたの人生に入り込んでくるものです。


 たとえば、何気なく選んだ道の先で、予想もしなかった光景に出くわすことがある。


 たとえば、ふとした拍子に誰かと目が合い、それが後に大きな意味を持つことがある。


 偶然とは、まるで見えざる手が、あなたの運命の糸をそっと引き寄せるようなもの。


 けれど、それが『幸運』なのか『不運』なのか――その答えは、誰にも分かりません。


 振り返ってみれば、あのときの選択がなければ、今のあなたは存在しなかったかもしれない。


 でも……もし違う道を選んでいたら? もし、あの瞬間が訪れていなかったら?


 考えたところで、結局のところ、私たちにできるのは『今』を生きることだけ。


 偶然は、いつだって予測できないタイミングで訪れます。そして、あなたはその偶然にどう向き合うのか――。


 その答えを知るのは、まさに今、この瞬間、その偶然と向き合っているあなただけなのです」


 と、ビデオカメラの前で男は静かに語り、ふっと小さく息をついた。


 まるで、今話した言葉の重みを噛みしめるように。

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