第24話 木漏れ日

 光と風の奔流を浴び、一瞬身体が浮遊した後、地面に立っていた。

「ここは……」

 暖かいそよ風が吹き、美しい森の中。振り返っても、そこに門はない。木漏れ日がおちる草むらがあるだけだ。

 腕の中からリューズが飛び出し、地面の臭いを嗅いだ。

 前方から足音が聞こえた。リューズが怯え、モナの足元に帰ってくる。

「誰だ?」

 深緑色のベストとズボンを着た男が数人現れる。

「あ、あの、私は、迷宮から来たんですけど……」

 男達の顔色が変わる。

「迷宮から? そんな、まさか! 一体何年ぶりだ? どうぞ、こちらへ!」

 男達は、モナを白い大きな建物へ連れていった。

 そこからは、目の回るような忙しさだった。

 代わる代わる大人が来ては、一方的に話し、また去っていく。新しい服に着替えさせられ、身体検査を受け、次は迷宮の中について話すよう要求された。クタクタになり、ベッドの中で泥のように眠った。朝になれば、また大人が来て、あれこれ話をする。

 大人達と話す中で、一つ分かったことがある。

 迷宮の内と外を繋ぐプロジェクトは、随分前に凍結された。今は内部と連絡を取る試みは行われていない。モナが、まだ中に研究者がいると伝えても、大人達は「どうしようもない」と首を振るばかりだった。内部で出会ったヒトは、もう死んだものと思って忘れるように、とまで言われた。

 モナが肩を落としているところに、二人の男が来た。

「モナ。本当にモナなのか?」

「……兄さん?」

 モナの二人の兄──オウとセキが、モナが泊まる部屋にやってきた。記憶の中の姿よりも、年をとっている。顔の皺は増え、髪に白いものが混じっている。しかし、がっしりとした筋肉質の体型や、豪快に笑う様は変わっていない。モナは兄達と抱擁した。

 それからさらに時間が経った。煩雑な手続きを経て、モナは兄達と同じ家で暮らせることになった。

 背の高いビル、道路を走る電車。モナには読めない字で書かれた看板。大勢の人が行き交う大通り。空を見上げると、虹色に煌めく正八面体が、遥か彼方に浮いている。何もかもが初めてみる光景だ。

 兄達の家は、町の片隅の、静かな通りにあった。青い屋根の可愛い家だ。オウに「ここがモナの部屋だ」と案内された部屋は、日当たりの良い部屋だった。過ごしやすそうだ。

 ベッドに腰掛け、一息ついたモナは、ポケットから小箱を取り出した。ルイから預かったそれの底面には、言われた通り、住所と思しき文字の羅列が書かれている。

(箱を他のヒトには見せないで、か……)

 モナは小箱をポケットに入れた。

「リューズ。また旅に出るよ」

 そして、再び荷造りを始めた。


(完)

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