第21話 月の光

「この門は、どうしたら開くの?」

「いくつかパーツを組み立て、エネルギーをチャージしたら開きます。準備に数日かかります」

 ルイは塔の中に入ると、門柱の脇にしゃがみ、作業を始めた。

「モナさん。退屈だとは思いますが、ご自由にお過ごしください。クレーターには入らないでくださいね。有毒ガスが出ているので。濃度が低いので死んだり病気になったりしませんが、できるだけ吸わないに越したことはありません」

「……分かった」

「塔から東にいったところに、青い屋根の小屋が見えると思います。なんにもない小屋ですが、寝泊まりはできます。あそこでお休みください」

「……そうする」

 モナはルイから離れた。大きな荷物を置きに、青い屋根の小屋へ行った。中はがらんどうだったが、壁や床、天井に穴が空いておらず、眠ることはできそうだ。モナは無くなっても問題ない荷物だけを置いた。そして、リューズをお供にして、荒れた世界を散歩し始めた。

 荒れた地面だが、よく見ると、小道がある。そこを何度も行き来し、踏み固められてできた道のようだ。

 道は、いくつもの瓦礫や廃墟に繋がっている。どこもかしこもボロボロで、何か有用な物は一つも残っていない。

 道はアーチ状の巨石の裏側に続いている。モナはリューズと一緒に、道を辿る。

 緩やかな坂を下り、巨石が作る影の下に入る。そこには、等間隔に棒が並んでいた。材質も形も大きさもバラバラだが、棒であることは共通している。

(全部墓標だ)

 道は、墓地の真ん中を突っ切り、巨石のふもとにある洞穴へ続いている。モナは故郷の世界で兄達に習った、弔いの文句を呟いた後、歩きだした。

 洞穴に入る。カバンから小さなランプを取り出し、明かりをつけた。

 大きなテーブルに、大量の写真が飾られている。

 多くの写真が、破れたり汚れたりしている。複数人が撮られた写真がほとんどだ。種族はバラバラだが、笑顔は共通している。仲が良さそうだ。

 ルイの写真もあった。仲間と楽しそうに笑っている。ただ、今のルイと違い、額の角が無い。

 モナは、色を失い白くなった両手を見た。迷宮では、姿が変わることは珍しくない。ルイも迷宮を旅するうちに、姿が変化したのだろう。

 写真の他には、手紙や本、小さなぬいぐるみやおもちゃ、その他様々な物が置かれている。物には名前が書かれたタグがつけられている。

 大体のものを見た。モナは、テーブルの下で眠るリューズを抱き上げ、洞穴の外に出た。

 外は暗くなっていた。空の端に、丸い月が浮かんでいる。青白い月の光が、荒地を照らしている。

(……ん? あれはなに?)

 遠くに、煌々と輝く光がある。非常によく目立つ橙色の光だ。昼間、あのようなものは無かった。

 光の方向は、ちょうど小道が向かう方向とも一致する。

「リューズ、行ってみようか」

 モナは歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る