汽車に揺られて


 地元は結構な田舎である。通っている鉄道も、電車ではなくディーゼル車というもの。皆、汽車汽車と呼んでいた。常にゴゴゴ……と唸っている。県外に出た時、電車の静かさに驚いたことを覚えている。

 車内はボックス席が多く、人が少ない日が多いのでボックスごと貸切、運が良ければ車内ごと貸切れる時がある。誰も居ない、走行音が響くだけの車内。ワンマン列車が普通なので車掌さんが見回りに来ることもなかなか無い。

 ひどく心が病んでいた時、進学先の県から地元まで汽車で帰ってくることがあった。イヤホンで音楽を聴きかながらぼうっと大きな窓の外を眺める時間。汽車に揺られるだけでもかなりリラックスできた。海のよく見える無人駅に着いた時、その風景に心奪われた。あの時の心の動きを忘れたくないなと思った。

 高校時代の通学にも汽車を使っていた。無人駅となった最寄り駅。やってきた二両編成の汽車に乗るとすでに乗っていた友達の所へ行き、相席させてもらう。走行音で話し声も聞こえないので、基本的に会話は無かったが、それでも楽しかった。

 大人になって自動車の免許を取得し、汽車に乗ることは滅多に無くなった。たまに旅行などで乗るとき、景色の良さや車内に一歩踏み入れる時にワクワク感を思い出しては、あの頃を懐かしんでいる。

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