短い青春と、SF恋愛の本。

ふわふわうさぎ

第1話 ふたつの王子様

短い青春って、なんなんでしょうか。僕には、さっぱり分かりません。

高校2年生。でも、甘酸っぱい恋や両片想いだとか、僕はぜんっぜん違います。

まあ好きな子は……小林音羽こばやしおとはさん、かな。


でも。


僕は、実はあと1週間したら天界っていう所に行かなければいけないんです。天国とは違って、王様がいる異世界みたいな所です。その王子様に選ばれてしまいました。


だから。


音羽さんとの時間を大切にしたくて。両想いだといいけど、それ以上はばちが当たりそうなので言いません。


残り7日 音羽さんとの出会い

「音羽さん……よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。演劇『白雪姫』で主役をやることになったんです」

「僕は王子様役です」

役っていうか、天界では本当に王子様だけど。それはさておき、白雪姫って白雪姫を王子様が助けるっていうやつ⁉

「本番、舞台で待ってるよ」

「あ、えっと、僕本番に行けなくて……」

顔を上げた頃には、もう音羽さんはいなかった。


「お、王子様役の、筒井晃広つついあきひろさんですか?」

「そ、そうだけど……?」

「良かったらこれ、受け取ってください!」

中身は、ラブレターだった。僕にくれたのは、思いがけない人。

古井乃亜ふるいのあさん。クラスで人気で、モテる女子。



音羽さんでは、ない。



僕がやらなければいけない、2つの王子様としての役割は。

果たせるのだろうか。


残り5日 演劇のリハーサル

「えっと、次は王子様が白雪姫と散歩していると、毒が抜けるシーンです」

カチンコが鳴る。actionと、声が聞こえる。役目を果たさなくては。


「し、白雪姫が⁉ぜひ僕に譲ってください。必ず起こします」

一生懸命覚えた台詞。小学生には分からないような、意味深なフレーズ。

音羽さんを抱く。これだけでも恥ずかしいのに、お姫様抱っこ⁉

なぜこんなストーリーの劇を思春期にやらないといけないの~⁉


(恥ずかしくないんですか)

小さい声が聞こえる。僕は周りに気づかれないようにしながら、返事をした。

(もう恋愛はできないから、僕はもうすぐ天界に行くので)

「ゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑ?」

急に大きな声がして、驚いた。そうか、天界のこと話してないのか。

「cut!」

ネイティブで発音の良い声が耳に入った。NGを出してしまった。

(ごめんなさい……恥ずかしい思いさせちゃって)

(いいんです、あくまでも劇ですから)

テイク2。actionと言われ、カチンコが鳴らされる。

「し、白雪姫が⁉ぜひ僕に譲ってください。必ず起こします」

テイク2で、慣れているはずなのに。いっそう恥ずかしかった。

「あっ、転ぶ!」

思ったより痛い。地面に叩きつけられる。でも音羽を守るためのことだ。

「あれ?私は、なぜここに⁉王子様、私を救ってくれたんですか?」

「そうです」

「ありがとうございます!」

その時、僕は我に返った。そういえば、音羽プリンセスの顔が近い。

目が綺麗、というか全部綺麗。服をドレスにしたらどうなってしまうのだろう。

楽しみです。


残り1日 本番と決意

僕が音羽プリンセスをお姫様抱っこした瞬間、女子たちの黄色い悲鳴が上がった。

目の前には、ドレス姿の好きな子のどアップ。照れないはずがない。

(ありがとうございます、私重くないですか?)

(そんなわけない。そういえば、天界に行くのは今日、もう会えないね)

(そ……そんなぁ)

「伝えたいことがあるから、体育館裏のベンチに来て」

より声を小さくしてそう言った。次のシーンはもうすぐだ。

「ゴーン ゴーン」

低い鐘の音が響き渡る。頬は赤くなりすぎて、心臓はうるさい。

王子様がプロポーズするシーン。レッドカーペット風の地面にひざまずく。そのシーンはすぐ終わり、劇は幕を閉じた。僕はたくさんの女子からインタビューを受けた。

でも、一番好きなのは、音羽なんだ。そう思って、体育館裏に向かう。

「どうしたの、急に呼び出して」

「僕はもうすぐ天界に行く。だから」

「だから?」

「僕のこと、全部忘れt」

音羽が僕の口をふさぐ。

「待ってください!天界って、北の天界ですか?」

「そうだけど」

「私も、行く運命になったんです。さっきの演技がうまくてスカウトされた、的な?だから、ずっと忘れませんよ?あと、何かすごく顔赤いよ」

その時、体の力が抜ける。最後の力を振り絞る。

「じ、か……んで、す……ね」

視界が真っ暗になり、意識がすっと抜けていく。天界に向かっている。


「晃広王子、良かったです!ちなみに婚約者候補がいまして」

地球の時よりも大人になった顔立ち。天界に行くと、年を少しとるらしい。

「小林音羽さんです。先程スカウトしましたが、性格や趣味が合っています」

音羽は、高校生から大学生へと変わっていた。

なんて言えばいいの、この気持ち。なぜか涙が止まらない。

「晃広!会えてよかった~」

「王子、地球で交流があったのですか⁉」

「そう、初こi……なんでもないです」

「えっ⁉」

顔が一気に赤くなる。心臓の音が前よりうるさい。

「まさか、地球でも婚約する間際だったとは。ではこれをお渡しください」

指輪だ。先程劇で使った指輪ケースと似ている。今で2回目の跪く場面。

台詞が思いつかないので、劇でやったことをもう1度やることにする。

「僕と」

「結婚してください、でしょ?分かった、喜んで!」

フライングしたようだ。完全には言えなかったけど、これから音羽との関係が始まる。天界で暮らすのも、悪くないな。

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