第6話 疑惑の拡散とイケメンの狙い
翌朝、教室に入ると、いつもどおりの冷たさが迎えてくれた。机はどうにか無事だったが、今度は教科書が床に放り出されていた。嫌がらせもワンパターンになったものだ。
それでも昨日の図書室のやり取りを思い出すと、少しだけ心が持ち直す。倉木のおかげでログの決定的瞬間が掴めるかもしれないと思うと、嫌がらせに耐える余裕が出た気がした。
だが、ホームルームが始まる直前、瀬良がわざわざ俺の席までやってきたのは想定外だった。クラス中が嫌な空気になるのを感じる。
「よぉ、阿久津、最近ちょっと余裕そうじゃん? 何か企んでるんじゃないかって噂になってるけど」
瀬良は見下すような笑みを浮かべる。もしかして、ログの件をかぎつけた? 内心ドキリとするが、表情を崩さないよう努める。
「さぁな。別に何も。冤罪を晴らしたいだけだ」
俺がさらっと答えると、瀬良はニヤリと笑った。
「へぇ、冤罪って……自分で言っちゃうんだ? 自信があるなら俺にも詳しく聞かせてよ。もし本当に無実なら手助けしてやるよ」
言葉だけ聞けば友好的だが、明らかに嘲笑の響きが混じっている。周囲の取り巻きもクスクス笑う。
「必要ないね」
俺は短く返す。どうせこんな奴に話したら、ログの証拠を隠蔽されるのがオチだ。
すると瀬良は表情を変えず、さらに近づいてきた。
「そっか。ま、阿久津がそう言うならいいけどさ。あんまり変な動きすると、みんなが余計に疑うよ? 気をつけて」
耳元で囁く声は低く、脅しともとれる。俺が「うるさい」と突き飛ばそうかと思った瞬間、教壇から担任が「席に戻れ、瀬良!」と注意する声を上げた。
瀬良はあっさり肩をすくめて自席へ戻っていく。悪びれた様子はまったくない。むしろ俺の反応を楽しんでいるようにも見えた。
そんなやり取りを見ても、クラスメイトの反応は微妙に薄い。“やっぱり阿久津、怪しいのかな”という空気が漂い、誰もこちらに加勢などしてくれない。俺はただ教科書を拾い上げて、黙って座った。
――何なんだ、あいつ。やはり瀬良たちが“チャットの削除”に絡んでいるんじゃないか? 勘が研ぎすまされていくような感覚がある。
放課後、校門の前で鳳 真琴と合流した。彼女は少し緊張した面持ちだが、朝よりは血色がいい。
「阿久津くん、瀬良に何か言われなかった?」
「まぁ、ちょっと探りを入れられた。バレてるのかどうか、判断できないけど……」
そう答えると、真琴は困ったように眉を下げる。
「私も今日は取り巻きに囲まれたわ。『最近あんたコソコソ何してるの?』って。でも証拠までは知らなそう」
どうやらどちらも同じ状況か。瀬良らが勘付いてはいるが、まだ核心部分まで届いていないと考えられる。
「とりあえず私、倉木くんと一緒に放送室をチェックしてみる。万が一、ログデータのバックアップが学校のどこかに残ってるかもしれないし」
真琴はそう言い、きゅっと拳を握る。
「俺は部活にも参加できないし、帰るしかないけど……なにかあったらすぐ連絡して」
「うん、わかった。後で連絡するね」
そう言って笑った真琴の表情は、昨日までと比べるとだいぶ希望が感じられた。ほんの少しだけど、俺たちの奪われた日常が戻る兆しが見えてきているのかもしれない。
だが同時に、俺は嫌な胸騒ぎも覚える。瀬良があれほど余裕の態度を取っているのは、自分たちが優位だと自信を持っているからじゃないのか? 下手すれば、こちらが証拠を抑える前に先手を打たれ、逆に陥れられる危険もある。
(でも、やらなきゃ何も変わらない。今は進むしかないんだ)
心の中でそう呟き、スマホを握りしめる。彩花からのLINEは相変わらずゼロのままだった。彼女があちら側に行ってしまった以上、今の俺を信じてくれるのは真琴くらいしかいない。だからこそ、俺はなんとしても前に進む。
少なくとも、真琴と一緒に立ち上がる覚悟がある。瀬良と取り巻きに奪われたものを少しずつ取り返すために――何があっても諦めないと強く誓うのだった。
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