第33話

離れようとしても逃がさないようにか後頭部に手が回っていて体もきつく抱きしめられて。なにより触れ合った唇と絡まる舌の感触がひどく甘やかされているみたいに感じてそれに溺れてしまう。



最初は離れなきゃ、ここからいなくならないといけないと思っていたのに、今はこれだけじゃ足りなくてもっともっととわたしは自分から目の前の人にすがっていた。




「水月」




とろりと、蜜が滴るように甘い瞳と同様の甘い声。好きな人にこんな風に見つめられて正気でいられる人がいるんだろうか。




「甘い味がするね」



「ん、」




ちゅ、と舌を吸われてぞくりと背筋に快感が走る。後頭部をとらえていた手は逃げる気のなくなったわたしを察したのか柔らかく、でもしっかりと腰を捕まえている。



頬に、鼻筋に、額に、顔中に柔らかい唇が落とされてまるでわたしが篠津さんにとっての大切なものになったみたい。ふわふわとした思考のままそんなことを考えてわたしは無意識のうちに口を開いていた。




「すき」




一瞬だけ目を見張る篠津さんに「あぁどうしよう、言っちゃったよ」と頭を抱える自分がいるのに不思議なくらい後悔も罪悪感もなかった。というか現実だとわかっているのに夢を見ているみたいにふわふわしてて…



ただ、伝えたい。わたしの気持ちを言いたくて。




「あなたが、すきです」




篠津さんの名前を呼べば嬉しそうに微笑んだ彼がいたような気がした。

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