第20話

飯田くんにも見えているということは幻覚ではないらしい。わたしの家の前、ちょこんと街灯の下に立っているのは悟だ。



一度家に帰ったのかラフな服を着ていてじっとわたしたちを凝視している。いつもならすぐに「おかえり」とふにゃりと顔が緩むのに表情どこ行ったと聞きたくなるぐらい無表情だ。




「え、ちょ、なんでこっち見てるの?なんで無表情なのっ?」



「いやいやそれこっちが聞きたいから。むしろお前お幼馴染みだろうなんでわかんないんだよってかこっち見てる睨んでる怖いってかおい服を引っ張るなっ」




こちとら怖いのは同じだっつのちょっとぐらい縋ってもいいじゃないかけちんぼ!



無表情のままこちらに歩いてくる悟に無意味にあわあわと慌ててしまう。疚しいこととかしてないしちゃんと前もって言ってあったんだから堂々としていればいいものを初めて見る悟にパニックになっていたらしい。



自然とぴんっと背筋を伸ばして飯田くんと2人直立不動で悟と対峙する。




「おかえり、はるちゃん。遅かったね?僕の知らないところで何をしていたの?」




こてん、と首を傾げる仕草はいつも通りなのに表情が違うだけでこんなにも変わるのかと無駄なことを考えながら「飯田くんのおうちでごはんを食べてきました」と素直に白状した。



その際飯田くんが天に召されそうな顔でこちらを見たけど残念ながらその意味を読み取れるほどわたしは賢くない。

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