第21話 アンデッドの森
▽第二十一話 アンデッドの森
今日のぼくは狩り場を変えていた。
というのも、やはりクレイジー・ドッグが怖すぎるのだ。かなり強くなったぼくでも、あれに噛まれるか、引っ掻かれるかすれば死が確定する。
やってられない。
また、あの病気が他者にも罹患するタイプなのが危険だ。
幸いながらハイスピード兎は種族単位で病気への耐性がある。
まあ、耐性がなければ、あの領域で生きてはいけないのだろう。
というか、クレイジー・ドッグが他に蔓延しない理由のひとつがハイスピード兎だ。あれが狩ってくれているから、クレイジー・ドッグが適正数に抑えられているのだろうね。
だが、炎トカゲのような例もある。
ランクⅣでもクレイジー・ドッグは十分な脅威なのだ。今後、うっかり対峙した敵がクレイジー・ドッグの影響下にありました。噛んじゃいました、では済まない。
ぼくは【本能探知】を信用しているが、少しは自分でも警戒しておくべきだね。
やって来た狩り場は……冷気立ちこめる場所。
ランク帯としてはⅢとⅣのどちらもいる、という感じかな。かなり危険な場所なのだけれど、ランクⅢ帯で無双できていたぼくならば……妥当だと思いたい。
あのランクⅢ帯でも、気持ち悪いゴキブリ、状態異常をばらまく蝶と毛虫は無視していた。虫だけにね。そういった相性の良し悪しはあるにせよ、ぼくなら戦うことくらいは可能だ。
ここは霊気の森、とでも名付けようか。
周囲を動き回っているのは、スケルトンやゾンビ、そういったアンデッドである。
「【
リスクのある格上帯にやって来られた、最たる理由を発動した。ぼくの三個しかない【白魔法】のうちの一種。
それが聖属性を爪に付与できる【エンチャント・ホーリー】である。
接敵。
即座にスケルトンを爪で一閃した。スケルトンは灰となって消えていく。火力差というよりも、触れた途端に消滅させることができた。
かなり良い。
ぼくはご機嫌にアンデッド狩りを続けた。経験値効率はかなり素晴らしく、また、厄介な能力を持つ敵もいないようだ。
ゾンビに噛まれたとしても、ゾンビになることはない。
特殊な能力として、頭部を破壊せねば動き続けるようだ。が、浄化してしまえば問答無用なので、ゾンビは触れただけで死ぬ雑魚となっていた。
▽
食事にする。
ぼくは【ディメンション・ポーチ】内に収納していた肉を焼く。これはハイスピード兎のお肉だ。
野生化で食べられる中では、最上位の美味しさをしていると思う。
このアンデッド地帯の弱点は、狩りをしてもお肉が得られないところかな。他の魔物はゆえに近寄りたがらない。メリットが少ないからだ。
ぼくは食事を持ち歩けるので、少しだけデメリットを帳消しにできる。
ここでレベル上げをする。
時折、また元の場所に戻って肉を手に入れる。ぼくのランクアップはたぶん近い。
▽
激しい弾幕を潜り抜ける。
放たれているのは三色の魔法弾だ。たった一匹のアンデッドが多彩な魔法を同時展開し、ぼくという生者を死へと誘おうとしている。
すべて回避する。
身を捩るような小さな回避ではない。ほとんど森を駆け回るようにして、純粋な足の速さで魔法を置き去りにする。風が髭をよく揺らす。
ガトリングのような弾幕には対処できないけれど、この魔法の弾幕には隙間が多い。連射感覚にしたって、一秒につき二発くらい。
直接戦闘系の【ウォー・キャット】には当たらない。
とくに今のぼくはレベル10もある。レベル1だった頃に会っていたならば、もっと苦戦してんだろうけどさ。
近づく。
ローブを纏った骸骨だった。リッチみたいな奴なのかな。近距離でも発動する魔法を繰ろうとしているのが見えた。
遅い。
容赦なく引っ掻く。それだけで暫定リッチは浄化された。
……たぶん敵はランクⅣ
すこぶる相性が良かった。
浄化攻撃で討伐した時、経験値は少なくなるようだ。それでも簡単、安全に倒せるので霊気の森でのレベリングは辞めないのだけれど。
「にゃうん」
やっぱり魔法が弱い世界なのか?
そんなわけがないような気もする。だが【空間魔法】を併用しない時、魔法は基本的には手や杖から出現する。
直接戦闘系が魔法を躱せないイメージが湧かない。
今のリッチ擬きにしたって、連射を優先していたので弱かった。避ける余地のない大規模魔法などはランクⅣでは使えないのかな。
ともかく次だ。
この霊気の森は異常に敵が多い。レベルを上げてください、とぼくに告げているかのような気さえしてくる。ひたすらに戦う。その体力が【ウォー・キャット】にはあるのだから。
またリッチ擬きを見つけた。
前方に盾のようにして、二十を超えるスケルトンもいる。隊列を組んでいる辺り、リッチには下位アンデッドへの指揮権のようなものがあるのかもしれないな。
『――』
リッチは首を左右に振る。カタカタ、と骨が揺れる音。それを合図にスケルトン部隊が迫ってくる。
リッチも長い詠唱を始めていた。
あんなに長い詠唱は見たことがないな。……あれが火力系魔法の真骨頂なのだろう。発動するところを見てみたいな。
ゆえに、ぼくは先にスケルトン軍団を相手取る。
まずは【掻き毟り】だ。
デタラメに巨大な猫の爪が大地で爪を研ぐ。
巻き込まれたスケルトン……大体10体ほどが木っ端微塵になって消滅した。
灰が舞い、日の光を浴びて溶け消える。
「……にゃ」
やっぱり使い勝手が悪い。
肉体的な疲労度は高いのに、狙いがデタラメで思ったほど殺せない。疲労度に鑑みれば、ぼくが普通に近づいて斬り付けたほうがよほど殺せるからね。
ただ威圧には十分だ。
余裕綽々だったリッチ擬きが、慌てたように杖を振り下ろした。スケルトンの部下ごとぼくを殺傷するつもりなのだろう。
放たれたのは――直系にして三メートルほどもある火球。
速度こそは愚鈍なものの、それに内包された威力は洒落に成っていない。命中したら一撃死、ということが【本能探知】で理解できた。
「にゃ」
ぼくは冷静に【カウンター・ゲート】を発動した。
炎は消失し、気づけばリッチ擬きの頭上で照っていた。リッチは慌てたように【水魔法】を発動していたが、初級だったようで焼け石に水。
リッチ擬きが消滅した。
大地には深い凹みが生じている。あれは【炎魔法・中】の魔法なのだろうか。詠唱の長さから実戦では使いづらいが、当てられれば……かなり強そうだ。
「【
MPの自然回復を促すために【白魔法】を使わせてもらう。産まれたクレーター擬きの中で休む。
今のぼくにとって【カウンター・ゲート】は負担が大きい。
それでも使用したのは「魔法の脅威度」を知るためだ。
あと今後、魔法系に進化しても良いのかを計るための試金石でもあった。見たところ「破壊力の魔法」「戦闘の直接戦闘系」という感じかな。
直接戦闘系は十分に火力もある。
ただ破壊という一点に於いては、魔法系には敵わないような気がした。種族スキル次第なところはあるけどさ。
今後、破壊力が必要となってくるのならば、魔法を選ぶのも悪くないだろう。
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