第19話 VSイカレトカゲ

    ▽第十八話 VSイカレトカゲ


 イカレトカゲを伺う。

 奴は積極的に凶暴亀を襲い、あっという間に喰らい尽くす。水魔法で必死に抵抗する亀も、大火力の炎を噴くトカゲには押し負ける。


 焼き尽くした後、啜るように亀を喰らう。


 イカレトカゲに喰われないのは、今や兎とぼくだけだ。他の生物はトカゲ相手に為す術がない。


「にゃお」

 

 少し一当てしてみよう。

 ぼくは樹上に隠れ潜んだまま、静かに魔法を発動した。


【ディメンション・ストライク】


 雷を迸らせる猫爪が、硬質な炎トカゲの鱗を削る。砕けたのは、残念ながらぼくの爪のほうだった。

 しかも熱い。

 手に引火してしまった。慌てて水魔法で鎮火させる。


『――――』


 気がつかれた。

 イカレトカゲと目が合う。先に攻撃したのはぼくだ。問答無用で水魔法での攻撃を加えさせてもらう。


 それを掻き消すように、イカレトカゲが火を吐く。

 生物型の火炎放射器は、水を容易く蒸発させながら、ぼくの命へと一直線に向かってくる。


【カウンター・ゲート】


 業火をそのままイカレトカゲにお返しする。

 けれど、炎に強い耐性があるのか、それとも自分の炎は無効化しているのか。ダメージを与えられている様子が見受けられない。


『――――』


 イカレトカゲは不動だ。

 気にした様子もなく、圧倒的な破壊力の炎を吹き続ける。あいつが脅威なのはあらゆる攻撃を無効化できる硬い鱗、そして大火力の遠距離攻撃を併せ持つこと。


 動きは愚鈍ながら勝ち目は薄い。

 そもそもランクⅢでは火力が不足している。


 病気を罹患しているので毒で殺すこともできない。

 ……脳裏では「大人しく逃げる」という選択肢が最有力候補として躍り出ている。


 物理攻撃、魔法攻撃は火力が足りない。

 毒も与えられず、敵の技は敵には無効化されてしまう。一見、万策尽きたかのように思われるかもしれないが。


「相手がイカレている。そして動きが鈍いなら……殺せる」


 ぼくはほくそ笑んだ。


       ▽

 ぼくは【ディメンション・ウォール】を床代わりに、ぐんぐんと空へと昇っていく。百メートルほどの高さにやって来た。


 でかい鳥が包囲してくるも、【雷爪】で威嚇すれば寄ってこない。


 鳥は雷のヤバさをよく知っているらしい。

 とはいえ、鳥頭なので威嚇を辞めた途端、すごい勢いで襲ってくるのだけれど。何匹か脅しの意味も込めて【ディメンション・ストライク】で屠っておく。


 さて。

 これくらいにしておこう。観察していて気がついたが、デカい鳥はこれよりも上の高さにいかない。


 これ以上は「なにかヤバい生物」を呼び寄せてしまうのだろう。それを奴らは種族単位の本能で理解しているのだ。前例に倣う。


「【アポートにゃおん】」


 突如、ぼくの前方に巨石が出現した。これはぼくが【空間魔法】のアポートで呼び寄せた巨石である。

 アポートは、己が所持品を引き寄せる魔法だ。

 範囲は魔法攻撃力に依存する。ぼくの場合、呼び寄せられる距離は30メートルほど。今回は四回ほどかけて呼びつけさせてもらった。


 途中、【ディメンション・ウォール】に置いて、呼んでを繰り返したわけだ。


 今、敵は真下にいる。

 頑張っておびき寄せたのだ。こっちも大岩を【アポート】で動かして、頑張って敵を殺せる位置にまでやって来たわけだね。


 トカゲの炎の射程範囲は五十メートルほど。


 途中までは頑張って避けていたが、今や届かない。イカレトカゲは切なそうに宙を見上げ、ぼくのことを焼きたそうにしているよ。


「にゃん」


 ここで【ディメンション・ウォール】を解除した。一気に重力に従い、巨石が真下のイカレトカゲを目指して落下し始める。

 ついでに岩へ【エンチャント・エア】を施す。

 トカゲは迎撃が目的なのか、いかれているのか巨石に向けて火を吹きかける。岩さえも溶かしそうな高温だが、ギリギリのところで【エンチャント・エア】が防壁となってくれた。


 次の瞬間。


 岩が落ちた。

 圧倒的な質量攻撃……この高さからならば、いくらあのイカレトカゲでも無事では済むまい。土煙で下を確認することはできない。

 サーチの範囲まで下がってから、煙を確認すると……まだ生きている。


 瀕死のようだけれど、たしかに生きていた。


 クレイジー・ドッグを喰らう前のトカゲならば、冷静に回避するなり、そもそも準備をさせてもくれなかったのだろう……

 知能デバフというのは酷いな…………


 ぼくは地面に降りた。

 硬質だった鱗は所々が砕けており、骨も折れてしまったらしい。岩に下敷きとなって、ぴくぴくと痙攣を繰り返している。

 ドン引きだ。思わず尻尾がビヨーンとなってしまう。お恥ずかしい。


「にゃお」


 ぼくは距離を取ってから――いくつかの準備を行った。まずは【エンチャント・エア】を爪に纏わせる。そして爪を出すことにより【雷爪】を起動。


 助走をつけて【加速】を用いる。


 圧倒的な速度と二種類のエンチャント。速すぎて視界がぶれるのだが、構うことなく――全力の一撃をトカゲの肉に叩き込む。

 貫き手のような爪が、トカゲの肉体を抉りこんだ。


 体内から雷で焼いていく。

 トカゲが激しく痙攣する。バタバタ、と暴れたかと思えば、三秒ほどで大人しくなってくれた……


 勝った。


【レベル上限を達成しました。】

【進化先を選択してください。】


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