第41話


 とりあえず自嘲せずに全力疾走で屋敷のところまでやってくると、既にクレイン達はかなりの激闘を繰り広げていたらしい。


 あんなに綺麗だった庭園は既にめちゃくちゃで、屋敷も中が見えるくらいに焼け焦げてしまっている。


 少なくとも俺がゲームで見た時は街中で戦ってたから、あれと比べれば随分マシな気はするが……にしてもすげぇな。どんな大技をぶつけ合ったらこんなになるんだよ。


 ……まあとりあえず、なんとか最悪の事態は避けられたようで良かったぜ。

 来たら死んでたなんてパターンだけは、御免被りたかったからな。


「貴様……何者だ?」


「俺か? 俺はどこにでもいる一般通過者だ」


 俺の前にいるのは、右腕を負傷した様子のジャビエルだ。

 ……んん、思ってたよりずいぶんと怪我が軽いな?


 『ソード・オブ・ファンタジア』では防衛に全力を出して疲労していたクレインに、しばらくまともに動けなくなるくらいの怪我を負わされていたはずだ。

 今のクレインは多分原作時より強くなっているし、今回はまったく疲れもない。


 それなのにクレインが死にかけで、ジャビエルに怪我はほとんどなし?

 認識阻害のアイテムを使ってたことといい、なんか違和感があるな。


 ……まあ、いいか。

 難しいことを考えるのは性に合わんし、やめだやめ。

 とりあえずこいつをぶん殴って鬱フラグをへし折り、さっさと魔物達にはご退場いただこう。


「ふざけた真似を……」


「とりあえず、最初っからギア上げてくぜ」


 何せ相手は終盤で出てくるボスクラスの敵。

 序盤は舐めプ……なんてやられるお約束はせずに、しょっぱなからレベル9の身体強化を発動させる。

 そのまま背後に回ると、思いっきり背中をぶん殴ってやった。


「がふ……っ!?」


 なんだこいつは、みたいな顔をしてきたのでその顔にハイキックを入れる。

 殴ってから蹴ると手が空く。だからまた殴る。


 空中で滞空して無防備になっているジャビエルにコンボを叩き込んでく。


 コツは落下の勢いがつくよりも早く殴って、相手を浮かせ続けることだ。

 感覚的には、格ゲーなんかで相手をいかに地面に落とさないようにするあれに似てるな。


「あぐ……がはあっ!?」


 面白いように打撃が決まっていく。

 数発も打つと口から吐血し始め、殴る度に身体に拳の痕がついていった。

 ……あれ、なんかこいつ弱くないか?


 こいつ本当に魔王軍の幹部なのか?

 クレインが苦戦するほど強いと思えないんだが……。


「オラオラオラオラッ!!」


 なんにせよ叩けるうちに叩いておくのが俺のジャスティス。

 俺は戦うのが好きなんじゃねぇ、勝つのが好きなんだよぉ!


 クレインとの連戦になっているであろう相手の事情なんてもんはまったく斟酌せず、良い感じに温まっている身体をトップギアに上げて殴って殴って殴り続ける。


「ぐ……あまりこちらを、舐めるなッ!」


 ジャビエルは殴られる中でなんとかして隙を見つけると、背中の翼を動かして空中で態勢を整えようとした。

 そのまま飛び上がろうとしてるのがわかったので、俺はそのまま上を取るように飛び上がり、地面に叩きつける。


「舐めてねぇよ、だから絶対、お前に空は飛ばせねぇ」


 ジャビエルは空を飛ぶかなりのスピードタイプだ。

 空に逃げられたら俺側が一気に不利になるので、とにかく距離を取ることになりそうなあちら側の選択は全て潰させてもらう。


 ジャビエルはその後も健気に翼を動かしてなんとか空に飛ぼうとしていたが、当然そんなことを許すはずもない。

 飛ぼうとする度に傷が増えていくことがわかった時点で、ジャビエルは空に逃げるのを諦めてこちらに向き直った。


「この馬鹿力が……食らえッ!」


 そして先ほどは宙で制動するために使っていたエネルギーを使い、こちらに魔法を放ってくる。

 飛んできたのは真っ黒な炎の槍……とりあえずぶん殴ったらスッと音もなく消えていった。


「なあっ!?」


「隙あり!」


「ぐふうっ!?」


 そして魔法発動後の隙を見逃さず、大ぶりなストレートをぶちまける。

 ジャビエルは口から血を吐き出しながらきりもみ回転して吹っ飛んでいった。


 俺はボーナスタイムとばかりにそれに併走しながら、そのまま落ちてしまわぬよう殴って勢いを付け足し続けた。


 屋敷を出てちょっと民家にも被害を出し、慌てて屋敷の方へと戻る。

 ハンドリングをしているような感覚で、殴っているうちにコツを掴んできたぞ。


「ぐはっ、なんなのだ……なんなのだ、貴様はッ!?」


「え、一般人ですが何か?」


「こんな一般人がいてたまるかっ!!」


「また俺、何かやっちゃいました?」


 ただどうやら軽い攻撃だけだと、ダメージは通るがなかなか勝負は決めきれないらしい。

 それならと思いっきり拳を打ち付けてやると、ジャビエルはそのまま半壊していた屋敷に頭から突っ込んでいった。


 当然のように追撃に移るが、今度はジャビエルの方から黒い霧が発生する。


 どうやら魔力感知すらも騙せるものらしく、一瞬だけジャビエルのことを見失う。

 だがそれならと動物的な第六感を使い、居場所を把握してぶん殴った。


「ぐっ!? ……ふははははっ!」


 殴られたジャビエルが、なぜか高笑いし始める。

 頭殴られすぎて、正気でも失ったんだろうか。


「まさかこれほどやる人間が他にもいたとはな……だが、その快進撃もこれまでよ!」


 そう言うジャビエルの手には、黒い箱が握られていた。

 なんかヤバそうな予感がするな……あれはなんだ?


「マスキュラー、あれは『御鏡箱』ってアイテムだ! 使ったやつの耐性を変える!」


「――はあっ!? 『御鏡箱』!?」


 たしか自身の弱点属性なんかの各種耐性を変えられるアイテムだったはずだ。

 なんで魔王軍が強アイテムを使ってくるんだよ!?

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