第23話

「ちょ、ダメだよ平蔵君!」


駆け寄ってきた竜堂が、慌ててゴミ箱からブツを取り出そうとする。ああ、お前ってやっぱり優しい奴だな。


「……良かった。袋は破れてないみたいだ」


そう言ってあっさりゴミ箱へと戻す竜堂。あれ、勘違いだったか?ああそうか、別の意味では優しいんだな。俺の短気のせいで危うく二度目のバイオテロが起きるところだったもんな。ありがとう、我が友よ。


しかし事態はこれで終わりではない。取り乱した神宮寺が俺へと突っかかってくる。


「どうしてよ!どうして食べてくれないの!」

「池田ァ!ちゃんと手綱握っとけって言っただろうがぁ!」


俺は胸ぐらを掴んでくる神宮寺の問いを無視して、池田にほぼ八つ当たりで怒鳴り散らす。


「俺の手は離れてるって言っただろ?……まあ、最後に引導は渡してやるけどな」


池田は神宮寺の手を取って、俺から引き剥がす。ああ、トドメの一撃を食らわせるのか。


「美涼、言ったよな?次に矢上に迷惑をかけたら、幼馴染の縁を切るって」

「だって、矢上君が食べてくれないのよ!?ゴローからも言ってあげてよ!」

「何度も普通に作れ、って言ったよな?お前、アレが普通なのか?なら、俺にもアレを食べさせるつもりだったのか?」


昨年同様、またしてもきょとん、とした表情になる神宮寺。何故そうなるの?とでも言いたげだ。


「そんなわけないじゃない。ゴローに渡す分は普通に……あれ?」

「普通に、なんだ?アレが普通じゃないってのは理解してるのか」

「そ、そうだけど……でも、矢上君なら喜ぶはずよ!」


誰が喜ぶかバカタレ。俺は敢えて口には出さず、呆れた顔で首を横に振る。


「イベントごっこは終わりだ。俺たちの幼馴染って関係もな」

「あのねゴロー、私たちの関係はそんなに簡単に切れるものじゃないわよ?」

「……美涼のやり方に合わせてみようか?イベントに失敗した幼馴染は、負けヒロインになるんだぜ」

「負け……ヒロイン?」


うわ、その切り口で攻めるのか。確かに効果的かもな。


「一連のことは、俺の気を引くために起こしたイベントだろ?ミスったらどうなるかも、調べてたんじゃないのか」

「し、失敗したのは矢上君がおかしな動きばかりするから……全然陰キャらしくないんだもん!」

「矢上は俺の大事な友人だ。それを見下したり、バカにすることは許さない」

「だ、だって……え?矢上君が友人?なんで?じゃあ、私は今まで……え?」


混乱してるようだが、池田が友達宣言することで、ようやく俺が引き立て役のモブキャラじゃなく、意思を持った一人の人間だと気がついたのか?何か素直に納得できないな。


まあ地頭はいいんだし、気付きさえあれば自己解決までは早いだろうな。


かつては俺を見下してたはずの池田も、一足先に成長してくれたようで何よりだ。


……ってなんだ、今度は親目線か?俺もかなりおかしくなってるようだな。反省反省。

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