第19話

「続き、いいか?」

「……どんと来い」


おそらく美涼は俺を嫉妬させると同時に、手作りチョコのテストと、矢上への施しで優しい自分をアピールしたかったんだと思う。付け加えるなら矢上を煽ってその気にさせて、告白もしくは付きまとわれるほど可愛い私、早くしないと取られちゃうよ?まで考えてたかもな。正直、相手が敷島や真壁だったら引っかかってたかもしれない。


そんなお試しに俺は軽くカチンと来てな、逆に素っ気ない振りしたんだよ。相手が矢上なら万に一つもないと。頑張れよ、と後押しまでして余裕を決め込んでな。これがガキみたいな対応をした俺の、大きなミスになってしまった。この時点で止めていたら、あの二度の騒動は起きなかっただろうな。


そしてバレンタインの翌日に話を聞いてみようとしたら、ものすごくぶんむくれててな。最初は俺に怒ってたのかと思ったが、仲間から話を集めたら、どうやら大失敗して受け取ってもらえなかったって聞いてな。本当にまさか、の一言だよ。それと同時に、美涼を拒否したっていう矢上に興味も出てきたんだ。


「……俺の尻は貸さんぞ」


言った瞬間、スパァン!と俺のデコに丸めたノートがヒットする。無言のツッコミとはやるじゃないか池田。しかも派手な音だけして痛みが無いとか、プロの漫才師もビックリだよ。


「続けるぞ」

「お、おう」


まあそこからは当事者の方が良く知ってるだろうが、終業式の日になって、隣のクラスの子が転校する。その原因が美涼にあるらしいって話が流れてきてな。少し前に先生からの呼び出しもあったし、ただ事じゃ無いと思って何度も追求して、ようやく口を割らせたのは3年生になってしばらく経ってからだった。


マジで愕然としたよ。なんで人の想いを踏みにじるような真似をしたのか、って問い詰めたら、矢上みたいな陰キャには、ツンデレとかヤンデレタイプが効果的って聞いたよ、だとさ。どうやら自分で本やネットの情報を探ったらしいが、その答えに辿り着いた時点でおかしいって思えよ……




ここで、池田の話は一旦終わる。

なるほど、以前に神宮寺がイベントだの計画だの言ってたのは、池田攻略のための布石のつもりだったのか。穴だらけの上に、俺が知る必要のないことだから、何もわからなかったんだな。


「つまり俺たちは、お前らの色恋沙汰の駆け引きに巻き込まれただけ、というわけか?」

「そうとも言える」

「そうとしか言わねーよ」


……まいったな。思ったよりふざけた話だ。神宮寺も普通に渡してさえいれば、ここまで拗れることもなかったのに。あ、その場合罠にハマった俺が、浮かれて宝城さんを振ってたのか。ままならないな。

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