第141話オヤマダタワーで待つ女
早朝のオヤマダタワー最上階、ペントハウスのリビングに転移魔法陣が現れた。
そこから現れたのはオヤマダと舞子である。地球人である彼らはロキたちと一緒にウィガニスから降りるわけにもいかず、一足先にブリッジから直接、日本へ戻ってきたのだ。
「ただいま戻りましたよ〜っと、って誰もいないけどぉ」
オヤマダはいつもの調子でおどけた。舞子は色々ありすぎて、ぐったりした様子だ。
「あらぁ、お帰りぃ。早かったのねぇ」
誰もいないはずのリビング。ロキが演説する大画面テレビの前に置かれたソファから、女性の声が聞こえた。なんとも言えない香しい匂いが辺りに立ちこめている。
「びっくぅ!! ヤダ、あんた誰!?」
オヤマダは驚いた時にたまに出るオネェ言葉で叫んだ。続いて舞子の肩を叩く。
「ちょっと勅使河原くん。だ、誰かいるんだけどぉ!」
「はいはい、もう、ハプニングは懲り懲りっすぅ。あとは社長に任せるんで、私は休ませていただきマッスル。それではお休みなさいの国さいたま……」
舞子はフラフラと自分の寝室へと向かった。思えば、寝ていたところをオヤマダに起こされ、気づいたらアフリカのジャングルへ飛ばされて以来の休息だ。ジャングルでボノボにハグされたのが夢の中の出来事に思える。
すると、ソファに座っていた女性が立ち上がり振り向いた。金糸の飾りの入った、白い古代ギリシャ風の衣装に身を包んだ、肌の浅黒い妖艶な女性である。
「あたしはローズマリー。あんたが本物のオヤマダかい? やっと会えたねぇ」
そう言って微笑んだ。一瞬で男を虜に出来そうな艶めいた表情である。
舞子は足を止め、ゆっくりと振り返った。
(うっわ、最悪……。超人、魔族、怪物、誰もいないのに、事件の黒幕に待ち伏せされたぁ)
オヤマダはそれとなく足元を確認した。魔法陣はまだ生きている。一度出て戻ればブリッジに戻れるはずだ。わざとローズマリーに近寄り、魔法陣から離れようとした。
「どなたか存じませんがぁ、道にでも迷われましたかな?」
しかし、その作戦はローズマリーに止められた。
「おっと、お待ちよ。動くんじゃないよ? そこのお嬢ちゃんもねぇ」
万事休す。オヤマダは吃りながら尋ねた。
「ど、ど、どうするんです? また、攫うつもりですか?」
両手を広げて答えるローズマリー。
「いや? もうそんなことしないさ。切り札のウィガンが殺されたんだ。無計画にアンタを攫ったところでロキの奴に殺されるだけさ」
「ズコッ、じゃあ何か別の御用でも?」
「昨日の夜さ、アンタんとこの店でラーメンを食べてね。パニックの中、支配人と料理人が丁寧に応対してくれてさぁ……」
ローズマリーはそう言って店の名刺をピッとオヤマダに投げてよこした。
顔に飛んできた名刺を、パクッと器用に口で咥えたオヤマダ。だが、別にカッコ良くはない。
「えーっと、あぁ、あの店の支配人は良く出来た男なんです。ご利用いただき、ありがとうございますぅ」
オヤマダは、深々と礼をした。
自分を攫おうと計画していた相手に頭を下げるオヤマダを見て、ローズマリーは、ふんっと鼻で笑った。
「あんまり気分が良かったから、社長のアンタに礼を言おうと思ったのに、逆に礼を言われるとは変わった男だねぇ? 気に入ったよ」
「えぇっ、あ、はい、いえ、そんな……」
アルファインではグライネに対して一目惚れで「はぷはぷ」し、今度はローズマリーから気に入られた。オヤマダに訪れたのは春か、それとも女難の嵐か?
そのやり取りに安心した舞子にまた眠気が襲う。
「なんかぁわからないですけどぉ、社長を攫わないなら私は寝ます……あ、そうだ。ロキ様がローズマリーさんのこと、次見つけたらぜってぇ殺すって言ってましたよ? 気をつけて下さいね。それではお休みなさいゼリア」
と言い残して舞子は寝室へ消えてしまった。
「……ま、テレビで演説してる間は大丈夫だね。オヤマダ、一杯やりながら一緒に見ようじゃないか……」
「えっ、あっ、はい、じゃあ、まぁ、少しだけ……」
ローズマリーがソファにオヤマダを引っ張り込む。
どうなる、オヤマダ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます