第116話私が殺る!


「最後に教えてやる。お前が殺したと思ってるグライネ、生きてるよ」


 苦しんでいたウィガンの両眼がカッと見開かれた。


「あぁ……あぁ……」

 ウィガンが大きく開いた口で何か言っている。そのまま五指を突き立て、心臓を抜き取れば、戦いは終わる。しかし、今際の際でウィガンが何を言うのか、ロキは興味を持ってしまった。


 元々、性悪ローズマリーに利用されて地球くんだりまでやってきたこの男をそれほど憎んでいなかった。太陽を破壊されていたら、物理的に地球を救う術はなかったかもしれないが、ウィガンが目的を地球の侵略、支配に切り替えた段階で、ロキには容易いミッションへと成り果てていたのである。


 ロキは、ウィガンの大口を開けた部分の袋に指で穴を開ける。外から空気が入り込み、話せるだけの余裕ができる。


「くはっっ! はぁ、はぁ、はぁ……」

 窒息寸前のウィガンが大きく呼吸し、息を整えるがなかなか話すまでに至らない。


「空気ってありがたいってか? あ〜あ、鼻水垂らしてみっともない。色男が台無しだぞ?」


「どうでもいい……助けろ」

 ウィガンが伏し目がちで言う。戦う意欲は完全に失っているように見える。


「あ?」


「助けてくれと言っている!」


「いや、普通に無理なんすけど……。お前みたいな調子こいて恒星や惑星破壊する野郎を野放しとか。いいか? あの地球って星には、俺の友達が沢山いるの。……2人も!」


「2人だけか……」


「おっ!? 人を友達少ないみたいに言いやがる。友達っていうのはなぁ、数が多けりゃ良いってわけじゃないって誰かが言ってたぞ! そういうテメェは何人いるんだ」


「いない、すべて死んだ。最後の友であり、愛した人がグライネだった……。もし、生きているなら謝りたい。そして、彼女に殺されるなら、それでも良い!」

 ちなみに、ローズマリーは今、東京でラーメンを堪能中だが、友にカウントされていないようだ。


「……友達いないのかよ」

 ロキはグライネの話より友達がいないことを哀れんだ。(こいつ、気に入らないやつ全員殺してきたんだな……。戻ったらハッシュの首チョンパ戻してやるか)


「ロキ様、ほだされないで!さっさと殺ったんなさい!」

「そうだ、ロキ。エルザの恨みがある、殺らないなら俺が頭から喰らうぞ」


 アイーシャとノアの言葉に我に返ったロキ、

「だそうだ。悪りぃな、運が良けりゃまた人間で生まれるさ」


「待て! 撤退する! もう2度とこの恒星系には近寄らん!」

 鼻水を垂らしながら、懇願するウィガン。


 ロキはそれに構わず、左手でウィガンの肩を掴み、心臓に突き立てた右手をゆっくりと差し込んでいく。袋を破り、分厚い筋肉の鎧へ到達する。


「くそ!」

 苦し紛れか、狙っていたのか、顔と胸元の袋が破れたことを利用してウィガンがその身体を縮小していった!

身体が縮小したことにより、圧縮が解け、その身が自由になっていく。


「ちっ、面倒だなぁ」

 舌打ちしたロキ、ウィガンに合わせて縮小を始めるが一歩出遅れて間に合わない。しかも、ウィガンは自らの身長3mを超えてなお、小さくなり続けた。

3m、2m、1m、50cm……。


「ノア、足元攻撃!」

 アイーシャの指示を受けた黒龍ノアが熱線をその足元に放つ。しかし、ロキの強力な圧縮袋が災いしてウィガンに防御壁代わりに使われた。


「私が殺る!」

 ノアがアイーシャを背中に乗せたまま急降下していく。眼下には圧縮袋から抜け出たウィガンが走り出していくのが見えた。向かう先にはゴーズがあちこちに開けた穴。


 ノアの背中で立ち上がったアイーシャが首、頭へと猛然と走り出す。いつもの執事姿ではない、日本出張用の美しいドレスを靡かせながら

 アイーシャは眼下のウィガンに向かって踏み切る。


「真・抜刀雷撃」

 左腰の鞘に手をやり居合の構えを見せながら空中で回転しながら狙いを定める。


「斬!」

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