第2話「紅蓮の龍と紅い巫女」

舞凪が意識を取り戻す。

どうやら、倒れていたらしい。


「……で、ここ、どこ?」


周囲を見渡し、最初に出た言葉がそれだった。

どこまでも広がる荒野、その中で舞凪は目覚めた。

空はどこまでも続き、澄み渡る青空は舞凪の心情とは真逆に爽やかだ。


その時だった。

舞凪の頭上を、一体のドラゴンが飛び去って行く。

飛行機の比喩表現では無い。

緑色の鱗を持ち、大きく広げた翼で羽ばたく、正真正銘の本物。

舞凪が幼い頃から憧れ続けた存在が、目の前に実在していた。


「待って!!私を!背中に乗せてッ!!置いて行かないでッ!!」


咄嗟に叫び後を追うが、ドラゴンの飛行速度に生身で追い付けるわけがない。

あっという間にドラゴンの姿は見えなくなり、舞凪も足を止める。

だが、その表情は輝きに溢れていた。

「スッッッッッッッッゴイよ!!!!!!本物のドラゴンだッッ!!」

舞凪は既に、これが現実であると理解していた。

走れば息が切れる、自然の摂理だ。

ならば、目の前に実在したドラゴンもまた、現実。

舞凪はついに自分の妄想が現実になったことを実感し、ただひたすらに天を仰いでいた。


不意に、視界が暗くなる。

視界を埋めつくしたの動きに合わせ、目線が下がる。

舞凪の目の前に降り立ったのは、紅色の鱗を持つドラゴン。

あまりにも急な出来事に、思考が追い付かない。

舞凪はただ口を開けて、見つめることしかできなかった。

だが、その中で気がついた。

ドラゴンの背に、誰かが乗っている。

人影はドラゴンから飛び降り、舞凪へと歩み寄る。

次第にハッキリするその人影は、どうやら一人の少女のようだった。

深紅のポニーテールを揺らし、紅白の袴を身に纏うその姿は、さながらアニメや漫画に登場する龍の巫女そのもの。

背丈が舞凪とほぼ同じ少女は言う。


「こんにちは、マナさん。この世界を救う、救世主様。」


舞凪はさすがに困惑した。

いくら妄想が現実になったとはいえ、名乗る前から名前を知られているというのは話が早すぎる。

それに、よく見ると少女の巫女服は一般的な巫女服よりも露出度が高く、どちらかというと踊り子と呼ぶ方が近いのではないかと思う。

その上で少女がかなり女性として魅力的な身体つきをしていることにも気がついた。

ふと目についた、少女の豊満な胸によってはち切れそうな胸元に思わず目が釘付けとなる。


「あの、聞いてます?あと、いきなりガン見は少しだけ引きます。」


少女はジト目で舞凪を見つめながら腕を組み、自らの胸を隠す。


「ごめんなさい……。それよりも、なんで私の事を知ってるんですか?あなたは一体誰なんですか?…そもそも、ここは一体……?」


舞凪の問いに少女はひとつずつ答えますね、と話し始める。


「まず1つ目。アナタの事を知っているのは、私たちがアナタをんだからです。2つ目。私の名は『ティア』です。龍神『ジークヴァール』様に仕える巫女で、今後はマナさんと共に行動させていただきます。そして最後の質問ですが、ここは『ハーモナドラ』。私たちの立つこの大陸『ドラグニール・キャニオン』の中で最も何も無い地です。まぁ、アナタが来る以前は、最も栄えた大都市でしたが。」


言われて周囲に目を向けると、確かに建物の残骸と思われる瓦礫のような物が見えた。

ティアは続ける。

「それと、改めて誤解を解いておきますが、この世界はアナタの妄想が現実となったわけではありませんので、悪しからず。アナタの世界でよく使われる言葉だと……異世界、と言ったところでしょうか。少なくとも、同じ時間軸には存在していません。」


明かされた真実に舞凪は少しだけショックを受けたが、それ以上に気がかりなことがあった。

「えっと、私を喚んだって……こう、世界を救う!とか、魔王を倒して!とかそういうことだったりします…?」

ティアは大きく頷く。

「えぇ、その通りです。マナさん。アナタには、この世界を襲う大災厄『焉環リィンカネーション』を打破し、平和をもたらしていただきたいのです。」


あまりにも唐突に押し付けられた使命。

舞凪はごくりと生唾を呑み、大きく息を吸い込み叫んだ。

「いや、なんで私ィ!!?」


彼方へと続く荒野の果てまで、舞凪の嘆きが轟くも、すぐに応えは無く。

ただまっすぐに、舞凪を見つめるティアだけが、優しく微笑みかけていた──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る