第11話 速攻

 瞬時に復活したユウガは、残念なことに事態を好転させた訳じゃなかった。端的に言って、不利な状況はなにも変わっていないのである。


 いくら装備ごと復活したと言っても、その性能が大幅に良くなった訳ではない。当然、その能力は据え置きなうえ、なんなら復活したてのせいで弱体化しているまである。あの一撃を浴びせられたのは、単純に相手が油断していたからだった。


「おまえっ……! ナマイキな動きしやがって……!!」


 男の吸血鬼は目をぎらつかせながら、再び水流攻撃を仕掛けてきた。ユウガはそれを少しだけ喰らいながらも、今度は装備が上手く動作しキズがつくことなく相手に近づくことができた。


「オラァァァッ!!」


 気合いの声を大きくあげ、ユウガは拳を腹に向けて入れる。男は苦悶の声を上げて吹っ飛ぶ。


「グゥゥッ……! でも、まだダメだね……! ボクちんの力はどこにいようと発動できるもんね!!」


 男は懲りずに攻撃を続ける。しかし、ユウガはその瞬間に気づく。あぁ、俺はいま明確に強くなっている、と。なぜなら、ユウガは成長していたからだ。たしかに、装備やユウガのスペックそのものは変わっていない。だが、本人の経験は間違いなく積まれ、活きているのだ。


 ──見切れる。水流が、止まっているかのようにすら見える。これがユウガ自身の慣れによるものなのか、グローブ自体の隠れ能力なのかは分からないが、とにかくその事実に気づくことが出来たのは間違いない。ユウガは華麗に避けながら拳を握る。


「トドメだっ……!!」


 そう言って殴りかかろうとしたとき、男は身を捨てるかのごとく溶鉱炉の方向に飛び降りた。


「なにっ!?」


 ユウガはあまりにも意外な行動に驚きを隠せない。しかし、男は溶鉱炉に沈むことなく、その傍の通路のような所に入った。ユウガはそれを追おうとするが、先程の風景がフラッシュバックする。


 今の自分にキズはない。しかし、あの時の俺は間違いなく──死ぬほどの熱さを経験したはずなのだ。しかし、なぜか今の自分にその火傷はない。痛みもない。アドレナリンのようなものが出てそれらを忘れ去っていたのかもしれないが、少なくともその時点の俺は熱さを経験しているはずなのだ。


 そして、実際にそれは脳裏に焼き付いてはいた。たまたま痛みを忘れられただけで、溶鉱炉に入った瞬間、俺は猛熱の中で瞬時に蒸発し、焼き切れるような痛みを一瞬だけ経験した。その感覚が、瞬間的にフラッシュバックしたのだ。


 つまり、ユウガは男を追えず、ただ見送るだけになってしまった。


「──情けねぇな、俺」


 ユウガはうずくまりながら、ただ自分の無力さを嘆いた。


◆ ◆ ◆


 一方、イムクとリーゼは二対一の状況を活かしきれない状況が続いていた。リーゼは剣を持ち、イムクは銃を持つ。しかし、その装備の相性はハッキリ言って良くなく、二人はチグハグな攻撃を続けていた。


「あらあら? バレットちゃんは銃の扱いが苦手なのかしら?」


 照準の合わないイムクに対し、女がそう言って煽る。もちろん、原因は実力不足ではない。単純な話、仮に発砲した弾丸がリーゼに当たれば、最悪フレンドリーファイアとして致命傷を与えてしまう。そのため、極力リーゼから離れた場所を狙うしかないのである。


「そんなに外すなら遠距離武器の意味がないわね〜」


 イムクはその言葉にヒントを得た。イムクは背中のジェットパックを起動し、高速で女へと突進する。


「ぶふっ……! ここに来てタックル? そんなの気休めにもならなっ……ぐっ……!?」


 イムクが行ったのはタックルではなかった。『至近距離からの発砲』である。それは、間違いなく女にダメージを与えた。イムクはその手応えをしっかりと感じ、次の作戦を考えにかかる。


「あー……なんなのよもう!! 腹立つっ!! 邪魔な機械は全部破壊するぶっこわすのよぉ!!」


 イムクとリーゼは、その言葉を聞いて理解する。ああ、こいつらは退ける程度じゃ足りないんだってことを。明らかに理性を失い、暴走しかける女の隙を見て、二人は身を寄せて話をする。


「あいつら、レイドレインのやつらだね」


「──なんですかそれは」


「説明は後。とにかくさっきの攻撃は相手に効いた。どういう理屈かは分からないけど」


「近距離に弱いのかと思いましたが、先程のパンチは効いていませんからね」


「──くるよ!」


 女は奇声を上げながら攻撃を仕掛けてくる。リーゼは剣を用いて女の攻撃に合わせる。


「ぐっ……! ふふっ……そんなものなのね……!!」


 効いていないように見えるが、実際は微量のダメージが入っている……とリーゼは推測した。そして、腕を複数回特徴的に振ると、イムクのパーツが強制的に換装された。


「な、なんですかこれっ!?」


 イムクの左手には、アイスピックのような物が出現した。しかし、意図的に出現させたということは何かしらの理由があるはず。イムクはその『何かしら』を信じ、女に向けて攻撃を仕掛ける。イムクはアイスピックを女の腹に刺した。


「がぁぁぁっ!?」


 ──効いた……!? いままでは効果の薄かった攻撃の数々の中で、アイスピックなどというあまり強くなさそうな攻撃が効力を発揮した……!?


「やっぱりか……」


 リーゼは確信する。こいつは近距離かつ、攻撃面積の低い攻撃でなければ通らないのだ。つまり、このどちらかを満たしていない攻撃は通用しない。リーゼは剣を構え直し、女の気を引くために大胆に走り出す。


「──いまだっ!」


 イムクはリーゼの方向に目を向けた女の頭にアイスピックを突き刺した。


「──がぁぁばっ!?」


 アイスピックに含まれた銀が、急速に脳を腐食させる。女は声を工場内に響かせながら倒れ、動きを完全に停止した。ここまでやって良かったのか、とも思うが、相手はこちらを殺しに来ていた。それを考えれば、このようなことになるのも無理はないのかもしれない。


「──おつかれ」


 リーゼの労りの言葉に、イムクは素直な雰囲気を出さずに頷いた。

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