第17話

「ヴァルハラのトップ、“クロノス”を倒せ。」


ヴァルハラの処理班・ハーメルンを撃退した俺は、彼が残したデータ端末を握りしめていた。


「クロノス……こいつがヴァルハラの黒幕ってわけか。」


「おい、本当に大丈夫なのか?」


レイが心配そうに俺を見つめる。


「これって、明らかにヤバい情報じゃない?」


「ああ、間違いなくヤバいな。」


俺はデータ端末を起動し、中身を確認する。


『クロノス──ヴァルハラの最高指導者』

『世界中の企業、政府機関に影響力を持ち、ランキング上位者を裏から操作している。』

『現在の世界ランキング1位のカインですら、クロノスの存在を完全には把握できていない。』

『クロノスは、未来予知に似た“特殊な能力”を持つとされている。』


「……未来予知に似た能力?」


「どういうこと?」


レイが端末を覗き込む。


「つまり、クロノスはあなたと同じく“未来を見る力”を持っている可能性があるってことね。」


「それって……ヤバくね?」


「ヤバいなんてもんじゃねぇ。」


未来予知を駆使してここまでのし上がってきた俺だが、もしクロノスが俺と同じ能力を持っているなら——


戦いは、完全に五分になる。


いや、それ以上に——


もしかすると、俺の“未来予知”ですらクロノスには通じないのかもしれない。


「とりあえず、これ以上の情報を集める必要があるな。」


「でも、どうやって?」


「カインに聞く。」


「……確かに、それが一番手っ取り早いか。」


俺たちはすぐに“ブラックサーバー”へと向かい、カインにコンタクトを取った。


「クロノス……か。」


カインは俺の手にしたデータ端末を見て、少し考え込んだ。


「こいつのことを知りたいのか?」


「もちろん。」


「……正直なところ、俺も完全な情報は持っていない。」


「え?」


「クロノスの存在は、ランキング上位の配信者たちの間でも“都市伝説”のようなものだった。」


「だった?」


「だが、最近になって確信した。」


カインは静かに言う。


「クロノスは本当に存在する。そして、奴は俺たちランキング上位者を監視し、時に“消す”ために動いている。」


「……!」


「風間凌、お前が狙われたのも、クロノスの意思だ。」


「マジかよ……。」


「さらに、最近わかったことがある。」


カインは手元の端末を操作し、一枚の画像を表示した。


「……この映像を見てみろ。」


画面に映ったのは、あるダンジョンの最深部の映像だった。


そこには、一人の黒いフードを被った人物が立っていた。


「これが……クロノス?」


「そうだ。」


「何をしている?」


「奴は、ダンジョンの“特定のエリア”を管理している。そして、ランキング10位以上の配信者がその領域に踏み込んだ時——必ず何かが起こる。」


「……何かって?」


「それを確かめるのは、お前次第だ。」


「……。」


俺は画面の映像をじっと見つめた。


クロノス——ヴァルハラの黒幕。


こいつを倒さない限り、俺の未来は確実に閉ざされる。


「……行くしかねぇな。」


「いい覚悟だ。」


カインは微笑んだ。


「クロノスの領域は、“オメガ・ダンジョン”と呼ばれている。」


「オメガ・ダンジョン……?」


「そこは、ランキング10位以上の配信者しか踏み入れることができない特殊なエリアだ。」


「マジかよ……。」


「そこに踏み込めば、クロノスと直接対峙することになる。」


「……つまり、俺がそこに行けば、クロノスと戦うことになるってことか。」


「そういうことだ。」


カインは真剣な眼差しで俺を見つめる。


「風間凌、これは“配信”ではない。お前の命を懸けた戦いになる。」


「……覚悟はできてる。」


俺は拳を握りしめた。


「クロノスを倒せば、俺は本当に自由になれるんだな?」


「いや……。」


カインは少し笑った。


「お前がクロノスを倒せば、お前が次のクロノスになるだけだ。」


「……!?」


「この戦いは、そういうものなんだよ。」


俺はカインの言葉の意味を考えながら、ゆっくりと深呼吸した。


次の戦いは、俺のすべてを賭けた決戦になる。


俺は改めて気を引き締めた。




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