ねずみのお椀

清瀬 六朗

第0話 梅子梅尽くし

 年末。

 帰省した梅子うめこが、着替えをして一階の茶の間に下りて行くと、

「今年はこれで年賀状を書きなさい」

とお父さんが年賀状の束を渡してくれた。

 「どうせ、書くつもりで、まだ用意も何もしてないんだろう」

と決めつける。

 そのとおりだ。年賀状を書く相手は減ってきているが、それでもけっこうまめに書いてきたほうなので、二十枚くらいは書かないといけない。

 年末ぎりぎりまで仕事があったので、まったく用意をしていない。

 それで

「あ、ありがとう」

と受け取った。

 受け取って、「えっ?」となる。

 家族の写真を並べた、差出人もお父さんとお母さんと梅子になった家族年賀状なのだけど。

 プリントされているいちばん大きい写真は、去年の春先、駅近くの梅花ばいか公園に行ったときの「梅くし」写真。

 梅子が、梅のがらの振り袖を着て、梅の花をバックに映っている。

 せいいっぱいおすまししたつもりが、目を細めて、達観したような顔をしている。

 顔に力を入れると硬い表情になるから、と、せいいっぱい力を抜いた結果だ。

 笑顔には違いないが、「あいまいな笑顔」。

 それに、自分には黒は似合わないと思っている梅子が、黒地にピンクや赤や白で梅の花を描いた生地の振り袖だ。

 「ほんとに自分?」という感じだ。

 写真はあと二枚。

 どちらも縦横とも「梅尽くし」写真の半分ほどの大きさだ。

 そのうち一枚は、志満しま百貨店で開かれたパティシエ教室での梅子の写真だ。自分で焼き上げたスポンジケーキを持って得意そうに笑って写っている。

 家族三人の写真は、その下、去年の五月に旅行に行ったときの、海辺の写真一枚だけだ。それが梅子一人のパティシエ写真と同じくらいの大きさで、しかも、家族写真は、お母さんが自撮りしたものだけど、いちばん大きく映っているのは梅子。

 「何これ?」

と梅子は露骨にいやそうに言う。

 「家族の年賀状なのにわたしの写真ばっかり」

 「そろそろ、おまえにもお相手が見つかってくれないと困るからな」

 大まじめに、お父さんが言う。

 「家族全員で、おまえのプロモーションってわけだ」

 「いや。まだ結婚なんかする気はないんだけど!」

と声を大にして主張しようとして、やめた。

 年末年始の帰省だ。

 親とケンカして気まずい、なんてことになったら、梅子もいやだ。

 それに、梅子が使うのなら、梅子の写真が多くてもかまわない。

 恥ずかしいけど、「親がこんなの作ったんだ」、「親バカだねぇ」みたいな会話でごまかせる。

 だから

「うん。ありがとう」

と言って受け取り、使うことにした。


 ※ 第1~2話は2025年2月19~20日に公開した内容から変更していません。

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