白殺し、という言葉を知っているか?
音央とお
1
日本の伝統色である「藍白」には「白殺し」という別名があるらしい。
たった少しの藍が入ることで白ではなくなることを意味するようだ。
そんな知識を知った時、思い浮かんだのはクラスメイトの顔だった。
この高校に入学した頃は、なんて透明感のある男の子なんだろうと思ったけど、今の彼にはそんなものはない。
その姿形も女性に対する経験値もガラリと変わってしまったようだ。
私はそれを残念に思っているのだけど―――
「山白さん」
裏庭のベンチでぼんやりと本を開いていたら、そこに影が出来た。側に人間が立ったことで生まれた影の正体は声で分かった。
「藍原くん」
ちらりと目を向けると眩しいほど銀髪が輝いている。私に名前を呼ばれた彼は嬉しそうに隣に腰を下ろした。
「何を読んでいるの?」
「海外の児童書。SNSでちょっと話題になっていたから」
「へぇ、どんな話?」
挿絵を覗き込んでくるから、彼の香りがふわりと拡がった。香水には詳しくないけれど、なんだかヤンチャだと思わせる。
「ちょっと離れてくれるかな、近すぎる」
「いいじゃん、山白さんとならくっつきたいよ」
もっと奥深くまでも、なんて囁かれるので目を見開いてしまう。
「どう? エッチなこと想像した?」
「やめて!」
ばんっ!と大きな音を立て本を閉じ、校舎の中へと逃げてしまおうと立ち上がるけれど、大きな掌がそれを許さなかった。
腕を取られて引き寄せられる。
「あの日のこと忘れたわけじゃないでしょう?」
「それは……っ!」
今でも鮮明に思い出してしまう。
不可抗力のようだけど一夜の過ちと言える時間を藍原くんと過ごしてしまった。
「ねぇ、山白さん」
腕の中に収まってしまった私に彼は囁くように語りかける。
「白殺し、だっけ? 君が教えてくれた言葉」
たしかにそんな会話をした。大した反応が返ってこなかったから覚えているとは思わなかった。
「藍原と山白にぴったりな言葉だと思う。もう君は真っ白には戻れないって自覚してる? ……
苦しそうに顔を歪ませたかと思えば、強引に唇を奪ってきた。このぞくぞくとする感覚は初めてのものじゃない。
「ごめんね」と聞こえてきたのは気のせいだろうか。
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