禁止する理由、その意義
「ダメダメ!駄目なものは駄目ー!没収没収!!!」
そんな甲高い声が妖精郷の中に響いていった。
「また大変なことになっているな」
裁きの神が話しかけたのは、妖精……ではなく、大きな妖精の姿をしたもう一人の裁きの神であった。
「ディエウス!聞いてよもう、妖精の皆が自分の身体の予備として魔導人形を作ろうとするのよ!」
ぷんすことする彼女を、ディエウスは宥めた。
「落ち着いてくれ、クイーン・マッブ。神種が慌てても仕方がない」
クイーン・マッブと呼ばれた神種は、そう宥められため息を深々とついた。
「それをすれば私のお叱りと然るべき罰が下るというのに、なんでするのかしら。私も『暇な神』でありたいのに」
「裁きの神が暇であることは難しいからな。どうしてもその権能と権威を振るう必要が出てきてしまう。それらでさえ、皆で保有して欲しいのだが」
ディエウスは人類種の裁きの神種、クイーン・マッブは妖精種の裁きの神種であった。それぞれが違う法や規範の下で動き、反した際の裁きの象徴として実体を得ている。
理想としてはどちらも『暇な神』であることだが、ディエウスは裁きの館にて相談をよく受けているし、クイーン・マッブはこうして妖精の奔放さに苦労しているのだ。
「俺は生まれたときに妖精種にも裁きの神がいるものかと驚いたものだ」
「いるわよ、妖精にだってしてはいけないことはあるのよ」
クイーン・マッブは人類種の背丈と変わらない身体でディエウスに近付く。
「妖精は魔導人形を作成してはならない。これは妖精にとって絶対的な規則なの。……いや嘘、本当な絶対遵守の代物ではないのよ」
ちょっと話、つきあってくれない?とのクイーン・マッブからのお誘いをディエウスは笑って受けた。
「それで、魔導人形を作ってはならないというのなどこから来ているんだ?」
それは誰しもが抱く当然の疑問であった。
「妖精の肉体造りからよ。そもそも妖精の肉体も広義で言えば魔導人形の括りに入るのよ。魔物の肉体から作った肉人形、それが妖精の肉体なの」
妖精種そのものは精霊種に近しい存在だ。自然発生した肉体のない存在であることは両者共通している。その中でもそのまま肉体を新たに得ることもなく過ごしているものが精霊種であり、自らの肉体を自らの手で作り上げるのが妖精種なのだ。
「だからね、妖精にとっての魔導人形を造ることと人類にとっての魔導人形を造ることはまた違うのよ」
「違う?」
「そう、違うのよ。ちょっとディエウス、貴方も魔導人形を造ってみなさいよ。人類種の魔法、貴方も扱えるのでしょう?」
「まあ扱えるが……材料は魔物の肉でいいのか?」
クイーン・マッブは頷き、配下のものに魔物の亡骸を持ってこさせた。
「人類種は肉で魔導人形を作らないとは思うけど、理論上はできるはずよね」
「そうだな。《クリエイション・ゴーレム》」
ディエウスか呪文を唱えると、魔物の骨肉が形を変え、見る見る無骨な二足歩行の魔導人形に姿を変えた。
「貴方の造る魔導人形って、こう、生命感がないわね」
「それは今言う事なのか?」
「結構大事なところよ。それで、この魔導人形に魂って宿せるかしら?」
ディエウスは首を横に振って否定した。
「無理だ。魔導人形に特定の動きを事前に組み込むことはできるが、基本的に人類種の方からなにかの魂を宿すように働きかけることはできない」
「そこよ、そこなのよ」
もう魔法は解いていいわよ、と言われ、ディエウスは魔法を解いた。
魔導人形は元の魔物の亡骸の形に戻っていった。
「人類種の魔導人形はどこまでいっても人形なの。けれども妖精にとっては魂を保存するための器なの。妖精じゃなくても魂を入れておけるだけの代物なのよ」
そこでディエウスは合点がいったように頷いた。
「悪霊のような実体のない魔物に空の器が乗っ取られるといいたいんだな」
「そう、そうなのよ!本当は魔物の肉で造り上げたものが一番危ないだけで、他の材質で作り上げたものに魂代わりのものを入れて、適切に管理するというのならいいのだけれども……」
そこまでいって、窓の外から妖精の民を見る。
「ちょっと適切な管理をするには種族として能天気すぎるわ」
「…………そうだな」
流石のディエウスもそこは否定しきれないといった様子だった。
「だから一律で禁止をしているのだけれども……第二の身体をお洒落としてもちたいだとか、今の身体を捨てて新しく作り直したいだとかで、魔導人形を作ってしまうことが後を絶たないのの……」
そしてまた、クイーン・マッブはため息をついた。
「苦労しているな。啓発活動なら言ってくれたら手伝おう、それぐらいの余裕はある」
「そう?それは頼もしいわ!」
クイーン・マッブはディエウスを見つめ、微笑んだ。
「より良き世のためにもう少し働きましょう、人類種の裁きの神種様」
その言葉にディエウスは同意した。
「そうだな、妖精種の裁きの神種殿」
裁きの神々が暇になる日はまだまだ遠いようであった。
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