エピソード2 神託

第3話 良い女ってなんだろうか

「見栄えのいい趣味が欲しい」

「どしたの急にー?」

 相変わらず二人が部屋のベッドの上でダラダラしていると、ミミィが突然そんな事を言い出した。

「いやさ、なんかこう……良い女になりたいじゃない?」

「そうだね、ミミィはもうずっといい女なのにそれ言い続けてるよね」

「良い子だねー!レリアは良い子だねー!いっつもアタシを否定しないし褒めてくれる。そんなレリアが大好きだよー!」

「うへ、うへへへー」

 ミミィはレリアに抱きつきつつ、頭をわしゃわしゃと撫でる。

 レリアもとても嬉しそうで、大型犬を愛でる飼い主とだいたい同じ構図だ。

「でもさー、今の時代さー、良い女という価値観がなんか良くないとされる感じないー?」

 大型犬なのに世間の潮流に敏感なレリアさんです。

「そんな話もあるかもだけど、まあ知ったこっちゃ無いわよね。だって私は女神なのよ?人間は頑張れば男にも女にもなれるかもしれないけど、女神はどうあがいても神にはなれないのよ。女神という概念だから私たちは」

「……なるほどー?」

「だから、どうせなら私は良い女神になりたいのよ、それはつまり良い女なのよ」

「……論点と結論がどっちも飛躍してる気がするけど、でもなんとなく言いたいことはわかったー」

 良く分からないが話がまとまったようだ。

「でね、レリア。私はもっと素敵になりたいのよ。なにせ女神なのだから。その為には見栄えのいい趣味が必要なのよ」

「うーん?見栄えの良い趣味でどうにかしようとしてる所がもう良い女からかけ離れてなーい?」

 自然な流れで、ミミィの膝枕へと頭を乗せるレリア。ミミィも自然な流れでそれを受け入れつつ今度は優しく頭を撫でる。

「真理を突いてはいけないわレリア。良い?世の中の良い女の大半は、見栄えだけの良い女なのよ」

「ならそれ目指さなくても良いのでは?」

「むしろそれを目指したい」

「なにゆえに?」

「いい?覚えておきなさいレリア……本当の良い女になろうと思ったらね……こんな風にソファでダラダラは出来ないのよ。意識が高くないといけないのよ」

「……今日も昼まで寝てて、さらには今、お菓子入れの奥から見つけた賞味期限ぎりぎりのポテチで三時のおやつを済ませるまでベッドの上から一歩も動かなかったのに?」

「そう、一歩も動かなかったのによ」

「……無理じゃない?」

「そう、無理なのよ。だから、本物になんかならなくても良いの。見栄えだけのいい女になりたいの」

「………納得した!!」

 ツッコミどころは大量にある気がするが、納得したのなら良しとしよう。

「でも、見栄えの良い趣味ってなにー?」

「それなのよね、それが難しいところなのよ……」

 二人そろって首をかしげる。

 ベッドの上でゴロゴロしながら、二人でスマホを見つつ趣味を探る。

 意識の低さを具現化したような時間を浪費しつつ、意識高く見える趣味を探すのだ。

「あー、これとかどう?テニスとか、ゴルフとか」

「ダメよ、お金がかかるしダルいから。良い女に見られたいけど、お金と体力は使いたくないの」

「わぁお、良い女でも許されないレベルのわがままだ。でも、それはそうーわかるー」

 わからない方が良いような気がするが、わかるようです。

「ってことはー、室内で出来るやつが良いよね」

「そうね、間違いないわ。……例えば……アクセサリー作りとか……いや、駄目ね」

「細かい部品とか絶対無くすもんねー」

「間違いないわ」

 謎の自信を見せる二人。

 話せば話すほど良い女像から離れていく気がするが、果たして気付いているのかどうか。

 そこからしばらく停滞した時間が続く。

「編み物とかー……?」

「悪くは無いけど、家庭的なタイプのいい女の趣味って感じするわ。私はもっとバリバリの良い女になりたいのよ」

「読書ー……?」

「本を読むこと自体は嫌いじゃないけど………センス難しくない?誰の本を読んでいればいい女なのか……ヘタすると流行りの本だけ読んでるみたいな浅いやつだと思われそうな怖さあるわね」

「楽器とか始めてみるー?」

「ハードル高いわね……初期投資が結構かかるし……」

「むずかしいねー」

「そうね、難しいわ……」

『いや、ただただ選り好みしてるだけで難しいも何もないスよ』

 ツッコミ不在の空間に突然降り注いだ光のようなその言葉は、またしても空中に開いた謎の円から語り掛けてくるサミュルゥだった。

「あ、ミュルさん、どうも」

「こんにちはー今暇ー?」

『暇なわけないっスよ。仕事中です。仕事の話に来たんですよ」

「えー?今忙しいんだけど」

『寝転がってダベってるだけに見えるスけど?』

「それはそう!」

「それはそうー!」


『……仕事の話、していいっスか?』

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