第10章 迫りくる脅威と決意

平和な日々が続いていたかのように思えたが、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。

村の空気がどこか緊張していることに、僕は気づいていた。村人たちは笑顔を浮かべてはいるものの、その表情には微かな不安の色が見える。

ある日の朝、僕はアリシアに呼び出された。村の広場に行くと、村長を中心にして緊迫した雰囲気が漂っていた。

「怠田様、実は……隣村が魔物の襲撃を受け、壊滅したとの報告が入りました」

村長の顔は険しく、重い空気が場を包んだ。

「隣村が……?」

僕の胸に冷たいものが走った。平和な生活を謳歌していたはずのこの地にも、魔物の脅威が迫っていたのだ。

「詳しい状況はわかりませんが、生き残った者の話では、強力な魔物が現れ、あっという間に村を蹂躙したそうです。そして、その背後には……魔王軍の幹部の姿があったとか」

「幹部……」

僕の脳裏にリヴァルスの顔が浮かぶ。あの圧倒的な力、そして執念深さ。彼が再び動き出したというのか。

「怠田様、どうかご協力を……」

村長の切実な眼差しに、僕は言葉を失った。楽して生きたい、何もせずに平穏に過ごしたい。それが僕の願いだった。

だが、現実はそんな僕を許してはくれないらしい。

「俺に何ができるって言うんだ……」

呟いた僕の言葉に、アリシアが力強く言った。

「怠田様は《怠惰スキル》を持っています。それは決して無力なものではありません。このスキルには、人を動かし、状況を変える力があるんです!」

「でも、俺はただ怠けたいだけで……」

「それでも、怠田様はこれまでに村の人々を救い、希望を与えてきました。怠田様がここにいるだけで、皆が勇気を持てるんです!」

アリシアの言葉に、僕は驚いた。確かに、何もしていないはずの僕が、村人たちに希望を与えているというのか?

「……わかったよ。俺なりにできることをやってみる」

それは、僕にとって大きな決意だった。怠け者であり続けたいという願いを抱きつつも、この異世界で逃げ続けることはできない。

「ありがとうございます、怠田様!」

アリシアの瞳が輝き、村人たちも歓声を上げた。その姿に、僕は少しだけ誇らしい気持ちになった。

だが、その瞬間、空気が一変した。冷たい風が吹き抜け、空が暗く曇る。

「来る……!」

アリシアが緊張した表情で空を見上げた。そこには、黒い影が渦巻いていた。

「まさか……もう襲撃が!?」

僕は身体が震えるのを感じた。頭では理解していたつもりだったが、実際に目の前に脅威が迫ると、恐怖が全身を支配した。

「村の防衛に当たれ! 皆、配置につけ!」

村長の号令と共に、村人たちは動き出した。だが、その動きは慣れているようには見えなかった。普段は穏やかな生活を送っている彼らにとって、戦いは未知のものだったのだ。

「俺が……俺が何とかしなきゃ……」

僕は震える足を踏みしめ、立ち上がった。《怠惰スキル》の力をどう使うか、考える暇はない。今、ここで僕が動かなければ、この村は壊滅してしまうかもしれない。

その時、空から黒い雷が落ちてきた。地面が裂け、爆音が轟く。

「くっ、なんて威力だ……!」

そして、闇の中から現れたのは――リヴァルスだった。

「久しぶりだな、怠田」

その顔には冷酷な笑みが浮かんでいる。前とは違う、明確な殺意がその瞳に宿っていた。

「お前には借りがある。前回の屈辱を晴らさせてもらうぞ」

リヴァルスの手に黒いオーラが集まり、その力が周囲を圧倒する。

「ま、待てよ! 俺は戦う気なんてないんだ!」

「ふん、そんな言い訳が通用すると思うか? お前の存在が、魔王様の計画の障害となっているのだ」

僕は全身が硬直し、逃げ出したい衝動に駆られた。だが、後ろには村人たちがいる。

逃げるわけにはいかない――そう、決めたはずだ。

「来い、怠田! 今度こそ決着をつけてやる!」

リヴァルスが闇の刃を構え、殺気を放った。

「くっ……怠けたいのに、なんで俺が戦わなきゃならないんだよ!」

それでも、僕は震える手を握りしめ、リヴァルスに向き合った。

「絶対に、負けられない……!」

次回、怠田とリヴァルスの壮絶な戦いが幕を開ける――。

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