第48話:強行突破


 「まさか検問所を突破しただけじゃ済まないとはね……」


 荒野を進んでしばらく経った頃、イリスが苦い顔で前方を指さした。


 そこには一段高い崖と、まるで砦のように構えた集団――

 さっきの兵士とは別のならず者たちが待ち構えていた。


 どうやら検問所を強引に抜けた俺たちを迎撃するために、どこかから連携してきたらしい。


 「何だよあれ。誰かの手先か?」


 俺が思わずつぶやくと、イリスが険しい表情でうなずく。


 「闇公爵は暗黒王国で絶大な権力を握る“有力貴族”の一人よ。

魔王がいなくなった後、いくつもの領地を実力で支配していて、反抗する者は容赦なく潰すって噂よ」


 「そりゃ厄介だな。こんな連中でも手下にするんだ?」


 モモが警戒心をあらわにしながら、剣を構える。

 イリスは小さく唇を噛んで続けた。


 「闇公爵には複数の配下や傭兵がいて、金や力で暗黒王国中のならず者を従えている。

 あんたたちが検問所を荒らしたのを聞きつけて、ここで仕留めようとしてるんでしょうね」


 崖の上から声が響く。


 「よくも検問所で暴れたな! 貴様らにここを通すわけにはいかん。

 命が欲しければ、今すぐ荷物を置いて帰れ!」


 雑魚の山賊かと思いきや、そいつらの装備はそこそこ整っている。

 魔法を扱えそうな人間も混じっており、これは一筋縄ではいかなそうだ。


 「金も荷物も渡す気はないよ。悪いけど、俺たちには急ぎの用があるんだ」


 俺がはっきり宣言すると、砦の連中は鼻で笑う。


 「おもしろい……ならば力ずくで黙らせるまでだ!」


 崖から一斉に矢の雨が放たれる。

 数が多すぎて、まともに食らったらひとたまりもない。


 「くっ……モモ、イリス、下がれ!」


 俺はとっさに右腕の光の紋様を発動し、拡大した光のシールドで矢を弾く。

 鋭い金属音とともに、数本の矢がバラバラと地面に落ちた。


 「助かったよ、レイさん……! 何とか反撃しないと!」


 モモが勇者の剣を手にして前に出る。イリスは火力支援の準備をしている。

 じいちゃんも視線を鋭くして敵の動向を見極めている。


 「じゃあ、俺が道を作るから、モモとイリスは突っ込んでくれ!」


 大声で指示を出しながら、再び光の紋様に魔力を集中。

 矢の雨が途切れた瞬間を狙い、衝撃波をぶちかます。


 「うおおおっ!」


 光の奔流が地面を駆け上り、崖の一部を崩しかけた。

 悲鳴が上がり、砦の一角がぐらりと揺れる。


 「な、なんだこの威力……!」


 敵の戦列が乱れた瞬間、モモが一瞬で駆け上がり、二人の魔法使いを剣圧で吹き飛ばす。


 「ライト・ブレイズ!」


 眩い光の斬撃が砦の柵や障害物をまとめて切り裂き、敵兵たちが次々と倒れ込んだ。


 「イリス、頼む!」

 「わかってるわよ!」


 イリスが闇の弾を連射し、崖上のアーチャーを狙い撃ち。

 的確な魔力弾が敵を直撃し、断末魔の叫びが周囲に響く。


 「じいちゃん、あっちの魔法陣を何とかできる?」

 「うむ、まかせろ」


 じいちゃんが軽やかな剣さばきで、砦を守護していた魔法陣の中心を切り裂く。


 小規模な爆発が起こり、バリアのような仕掛けが一気に崩壊。

 敵の抵抗は急激に弱まるが、まだ最後の力を振り絞る者がいる。


 「くそっ、何なんだこいつら……!」

 「化け物だ……逃げろ!」


 無秩序に散り散りになっていく中、戦列を立て直そうと奮起する中ボス風の戦士が現れた。

 両手剣を振り回し、明らかに他の雑魚とは格が違うオーラを放っている。


 「おまえら、ここで終わりだ……!」


 荒々しい咆哮を上げながら突進してくる戦士。

 その魔力が剣に宿り、紫色の閃光をまとっている。


 「もう話は通じないな……!」


 俺は光の紋様を極限まで高め、相手の両手剣にぶつかり合う。


 「はあああっ!」


 ドカン!


 と爆発的な音が響き、二人の間に激しい衝撃波が走る。

 風圧が地面の砂を巻き上げ、その場の視界を一瞬奪った。


 「ぐあああっ!」


 敵戦士は宙を舞い、地面に叩きつけられる。

 両手剣は根元から砕け散り、男は動かなくなる。


 「やったな、レイさん!」


 モモが駆け寄ってくる。


 周囲を見渡すと、イリスやじいちゃんが他の敵を制圧しているところだった。

 すでに勝負は決したようだ。


 「もう……誰も動けないね」


 モモが剣を収めながら、荒い息をつく。

 イリスも闇の弾を収め、よどんだ空気を吐き出すように立ち尽くしている。


 「一瞬でも気を緩めたらこっちがやられてたかも……

 でも、あんたたちのおかげね」


 敵は完全に敗走。


 あれだけの大人数で迎撃してきたにもかかわらず、俺たちの連携に太刀打ちできなかったわけだ。


 「この先に控えている連中はもっと強いかもしれない。

 さっきイリスが言った“闇公爵”の手下……どんな組織かはわからないけど、これじゃ済まないだろうね」


 俺の言葉に、イリスは険しい目で先を見つめる。


 「そう……闇公爵に逆らう者は徹底的に潰すのがここの掟。

 私たちも目をつけられた以上、いずれ大きなバトルは避けられないわ」


 「構わない。やるしかないだろ。ここまで来たんだから、父の足取りも探るし、暗黒王国がどうなってるのかも確かめたい」


 俺は強い意志を込めて右腕の紋様を握る。


 「そうですね、レイさん。私たちも一緒です」


 モモが微笑み、じいちゃんもうなずいてくれた。


 「若い者に負けんよう、わしも腕を振るうとしようかのう」


 こうして一行は、崩れ落ちた砦の前を後にした。

 粉塵が舞う戦場跡に絶望の声がこだまする中、俺たちは一歩ずつ危険の深奥へと進んでいく。


 (闇公爵……いったいどんな相手が待っているんだ?)


 胸の奥に不安は消えない。


 でも、ここで止まるわけにはいかない。


 ――次に会うのが誰であれ、俺たちは必ず切り抜ける。

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