第17話 かくして、村は平和です


 ぎゃははははは!


 ゴブリンの巣穴の奥で、しぃちゃんの笑い声がこだまする。


「モンスターとかじゃなくて、フィオが原因とかやべえ! うける! 笑いじぬぅぅぅ!」


「笑いすぎですぅ」


 フィオがすっかり意気消沈している。


「といえわけでえええ、ゴブリンさん、申し訳ないですぅ。フィオのせいでしたああああ」


「ちょっと待って! 訳せない! 訳せないって! そんなん!」


 尚もしぃちゃんは笑い転げてた。


 大ゴブリンは訳もわからず、困惑しているようだ。無理もない。だが真実を知ったらさらに困惑するだろうな。


 フィオが尚も必死に謝る。


「金輪際、川で洗濯はしませぬゆええ……」


「もうやめてえええ! ぎゃははははは!」


 ややあって、ようやく立ち直ったしぃちゃんが吹き出しながらもなんとか訳すと、大ゴブリンの目がみるみる大きくなっていった。


 そりゃ、びっくりするよな。


 大ゴブリンがドスドスとフィオの前まで駆け寄る。


「ひえぇ、ごめんなさいごめんなさい! やっぱりおこりますよねぇぇ」


 フィオが手を合わせる先で、大ゴブリンが膝をついて頭を下げた。ついてきたメスゴブリンや子どもたちもそれに続く。


「ゴーブゴブゴブゴフ!」


「ぶふぅ!」


 しぃちゃんが再び吹き出す。


「おいおい笑ってねーで訳してくれ。気になるだろ」


「フィオが川の女神だって! 忠誠を誓うから、今後は魚をたくさんとらせてほしいって!」


「ええぇ!? 川の女神さまぁ?」


「でも本気みたいよ?」


「ごぶごーぶ! ごぶごぶごぶ、ごぶぶぅ!」


「ごぶぶぅ!」


「偉大なる川の女神よ、あなたに会えたことを感謝しますだって。今後は忠誠を誓いますって」


「こまりますぅぅぅぅぅ!!! 女神なんてむりですからああああ!!!」


 フィオが青くなって叫び、しぃちゃんが顔を背けて吹き出す。


 こいつ、スイッチ入ると一生笑い転げてるタイプだな。





 洞窟を抜けるとフィオ一家の荷馬車が待っていた。心配そうにこちらを見守っている。


「あ! 姉ちゃんだ!」


 弟くんが手を振る。


「おお、無事に出てきたのか! フィオオオオって! えええぇ!?」


 お父さんが驚いたのと無理はない。


 出てきたフィオは、ゴブリンたちによって神輿に担ぎ上げられていた。


「お、おとおさああああん!」


 フィオが手を伸ばす。


「助けてええええ! 降ろしてくれないよおおおお!」


「セヤゴブ! セヤゴブ!」


 ゴブリンたちは掛け声と共に、神輿を揺らしながら荷馬車の前を練り歩き、通り過ぎて行った。


「あれ! ゴブリンさあああん! 通り過ぎましたよおおお!  ちょっとおおおお!」


 遠ざかっていくフィオを俺たちは呆然と見送った。


「おいおい! はぐりくん! これはどういうことかね! なんか攫われていったみたいだが!」


「いやあ、お父さん。攫われたっていうか、どうもフィオさん、崇拝されてるみたいです」


「ええぇぇ!! なんでえええ!? 魚、とれないの謝りに行ったんだよねええぇ!?」


「はあ。どうもゴブリンたちの崇拝する川の女神というのに、フィオの特徴が当てはまるみたいです」


「落ち着いてる場合かね! フィオはどこへ向かってるのかね!?」


「いやあ、村じゃないですかね」


「そっちはだめえええええ!」


 遠くからフィオの悲鳴が聞こえてくる。


「こんな帰り方したらあああああ! 変な噂が立っちゃうよおおおお! 止まってええええ!」


 これでわかっただろう、フィオ。


 俺は腕組みし、愛弟子を見送るような視線を送った。


 もうおまえ、普通のむらむすめとか無理なんだって。


「あらあらどうしましょう」


 フィオママが頬に手を当てて、困っている。


「あの子まだ、お弁当、食べてないのに」


「仕方ないですね! とりあえずみんなでつつきながら帰りましょうか」


「やりいいい! おべんと、おべんと♪ 嬉しいなー♪」


 しぃちゃんがテンション高めに荷馬車に乗り込んだ。俺もその後ろから乗り込む。


 荷馬車の上から立ち尽くす勇者たちの姿が見えた。我を忘れて、フィオの消えてった方を見ている。


 こいつらにもようやくわかったようだな。


 そう、この異世界に常識なぞ通用しない!




 村に着くと案の定、大混乱だった。


「くぉらああ! ゴブリンども! フィオを返せええ!」


「ゴブゴブゥ! ゴブゴブゴブブ!!」


 村の入り口で、村人とゴブリンたちが激しく言い合いをしている。今にも戦いが起きそうな雰囲気だった。


「違うんですぅ! 違います!」


 フィオが慌てて弁解する。


「どう違うというんだ! こんな大量のゴブリンが村にやってくるなんて、今までなかったんだ!」


「そうですけどぉ、うわーん、どう説明したらいいのかわからねーですぅぅ!!!」


「待ってくれみんな!」


 俺はその間に割って入った。


「落ち着け! フィオは攫われてるんじゃない! 崇拝されてるだけなんだ!」


「いきなり来て何言ってんだおめえは! 頭、おかしいのか!」


「本当なんだ! 川で洗濯して、氾濫させたらゴブリンたちの崇拝の対象になったんだよ!」


「だから何言ってんのかまったくわからん!!」


 く……村人たちは冷静を欠いていて、事実を説明したのに受け入れる余裕がないようだ。どうしたらいい!


「ゴーブゴブゴブ」


 しぃちゃんがゴブリンたちに何かを説明する。するとゴブリンたちは顔を見合わせて、フィオを神輿から下ろした。


「なんかフィオが嫌がってんのわかんなかったみたいよ」


「こんなに泣いて喚いてたのにですかああああ!?」


「まあ、ゴブリンに人間の表情なんてわかんないっしょ」


「うえぇぇん。でもよかったですぅ! おろしてもらえましたああああ! しぃちゃんさんには、なんでお礼を言ったらいいのかあああ!」


「大袈裟だって」


 しぃちゃんが笑って手を振ると、その手をフィオがつかんだ。


「ありがとございますぅぅぅ!」


「わわ! わかったって! だから落ち着いて、ぜったい振りまわすなよ!」


 しぃちゃんがいつになく慌ててる。まあ勇者の惨劇を目の前で見てるからね。


「つーわけだ! わかったかい、これで俺の言ったこと、信じてもらえるよな」


「信じる信じない以前に状況がわからないんだが」


「はいはい、みなさん」


 フィオママがパンパンと手を叩いた。


「フィオの優しい気持ちがゴブリンさんに届いたのですよ。一件落着です!」


「いや何も説明……」


「落着です!」


「え、あ、はい」


 落着したようだ。良かった。




 こうして、ゴブリンによる卵の盗難事件は幕を閉じた。


 とある朝。


 俺は大きく欠伸をしながら玄関に出ると、そこに大量の川魚が届けられていた。


「おーい、また魚、届いてるぞー」


「ゴブリンさんたちですかぁ? これ、いつまで続くんですかあ?」


 フィオが洗濯やめたら本当に川に魚が戻ったようだ。大層喜んだゴブリンたちが、お供え物を持ってくるようになったのだった。


 家の裏手の畑を見ると、ゴブリンたちが土を耕している。


 フィオの姿を見つけると作業をやめて、手を合わせるとパン! パン! と二回手を叩いた。


「また参拝されてますぅ」


「ほんと、助かるわあ。ゴブリンさんたち、よく働くもの」


 フィオママがにこにこしている。


「じゃあ次は、羊の餌やり、お願いしようかしら」


「うちが訳すんだよねー? はぁ、眠ぃよぉ」


 しぃちゃんがとぼとぼとゴブリンの元へ向かう。今まで昼まで寝ていたギャルニートは朝から駆り出されるようになり、青い顔をしている。低血圧、マジだったんだな。


 畑の方では、すっかり仲良くなった子供ゴブリンとリオくんティオちゃんが走り回っている。


「一見落着だなあ。さあ、戻って二度寝でもすっかあ」


 伸びをする俺の肩をぽんぽんと叩くものがいた。


 フィオパパだ。


「お父さん! 平和になってよかったですね!」


「そうだね、それは良かったんだけど」


「ええ! 本当に!」


「君は毎日、寝てばかりだよね」


「はっはっは」


「はっはっはじゃないんだわ。うちにはただ飯食らい置いとくほど余裕はない……あれ、どこにいくんだい? 待ちたまえ! 待て! 働けぇ! ゴブリンさんを見習って働けええええ!」


 はは、つかまるもんかよ!


 俺の逃げ足の速さは金メダル級だからな! けど夕飯までにはなんか適当な言い訳考えよう!


 なんも思い浮かばないが、まあ相手はチョロ親父、なんとかなるだろう!






◇◇◇◇◇


ゴブリン討伐編、完!です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

楽しんでもらえていたら何よりです!


いつも♡やコメント、励みにさせていただいてます!


もしまだの方、面白かったら以下のリンクから

フォローや⭐︎⭐︎⭐︎評価、よろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093094218619584


次回からは、三人目のヒロイン、いかれた倫理観の魔法少女、レティが登場します。


ますます賑やかになっていくのですが、こちらも楽しんでいただけたら嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る