第3話 パーティ追放は鉄板と心得るべし

 ろいやるきゃっと(ユニーク)Lv12/20



 こ、こいつ!


 なんか急に、このつぶらな瞳が見下してるように見えてきた!


 にゃーん。



「はぐり! 猫に負けてんじゃん!」


 指差したのはしぃちゃんだった。




「どんなに頑張っても猫以下の未来ってマジィ?」


 ゲラゲラゲラゲラ! 


 周囲に皆の笑い声がこだました。ちなみに一番響いてたのはしぃちゃんの笑い声だった。


「者ども、静まれぃ!」


 突如、雷鳴のような王様(Lv77)の声が響き渡る。


 って、77? 77ァ!?


 いやもうお前が魔王倒しにいけよ!

 王の隣では、大臣が細い目を大きくして静止していた。ややあって、つぶやく。


「こやつ、モンスター職ですな」


「はい?」


「ゆうしゃ、せんしといったものとは別に、モンスターを職業とするものがあるのです。単なる職業ではなく、モンスターの特性も引き継ぐとか…」


 あ、なるほどね。じゃあ、もしかして、この体が溶けるのも俺のオリジナルのモンスターの特性ってわけか。でもどうせ、ろくでもないモンスターなんだろうな。


 俺が疑問を尋ねる。


「職業ってことは転職可能なのか?」


「はい、転職するにははるか北にありますデオーマ神殿を尋ね、そこにいる大神官の前で誓う必要があります。ただ…」


 ああ、なるほどそういう神殿ね。ただ?


「道筋は厳しいですぞ。数々の山脈、海、魔王領地を超えて行かなくてはなりません。レベル1でHP3のはぐりどのがたどり着くのはむりむりむり、絶対むりでございます」


 なるほど、言い方はひっかるが、現状ではとにかく無理そうなのはわかった。


 せめて高レベルの味方がいればなんとかなるのかもしれんが。


 ほっほっほっ。大臣が笑った。


「王様、この方のステータスをもう一度見てくだされ!」


はぐり

◾️-る◾️◾️-◾️-Lv1

HP3 MP10


ちから3


まもり1024


すばやさ255


かしこさ5


ラック5


「なんと歪な すていたす!!」


「は! 異常に高い身の守り、素早さ! さっきから溶けたり戻ったりしてる足!」


 やべ、気づかれてた。


「かの希少モンスター! はぐれメルトしかありません!」


「は、はぐれメルト!?」


 なんか昔やったゲームで聞いたことあんなぁ。どんなモンスターだっけ?


「はぐれメルトとは経験値爆上げボーナスモンスターでございます! 逃げ足だけは早く戦闘力は皆無ですが、倒せば100万経験値が手に入るという」


 ああ、そうそう、そんな感じ。


 たまにしか出てこないから、遭遇するとテンション爆上がりなんだよなあ。逃げ足も早いから、眼の色変えて攻撃ボタンレンダしたっけ。


 はぐれメルト狩りだあああ…

 

 …………って、え、俺?


 城内の空気が変わっていた。


 しーん、とした中、


 チャキ。


 誰かの剣を構える音がする。


「つまりこいつを倒せば、経験値が爆あがりってことかぁ?」


 勇者が剣を引き抜く。


「こりゃいいや! お前の追放先が決まったぜ! あの世になぁ!」


 どうでもいいけど、さっきからこいつ、追放追放って言いたいだけじゃねーのか!?


 勇者の剣が振り下ろされるが、そんなもの、当たる俺ではない!

 


 素早さ255! 身の守り1024!



 まさに逃げに特化した能力! 


 こんな10レベ勇者の攻撃など、俺にはかすりもしない!


 そこに戦士の斧が振り下ろされ、聖女のメイスが振り下ろされる。


「抜け駆けすんな、勇者! 経験値は俺がいただく!」


「でしゃばんな、シャバ増ども! 経験値はあたしがいただくんだよぉ!」


 皆、目の色が変わっている。メイスに舌を這わせる聖女に至ってはキャラまで崩壊していた。



 その現場を、巨大な衝撃波が通り過ぎた。爆発音。


 俺だけでなく勇者パーティもぶっ飛ばされていた。


 手から闘気を放った(らしい)王様が、圧倒的な迫力で言い放つ。



「騒ぐな、下郎ども。経験値はワシがいただくわ」


 そのあまりの迫力にちびりそうになる。そしてちびる、下半身がないことに気づく。


 今の衝撃で、下半身が溶けていた。


 やべ、余裕なさすぎて人間形態が崩れてきてやがる!




「ほほほ、はぐりどの。あなたさまがデオーマ神殿に辿り着けるか否か、そんなこと心配せずともよいのです。

 なぜなら! この城を! 生きて出ることは叶いませぬからなぁぁぁ!」


 糸目の大臣は、どこから出したのか黒くて長い爪を両手に装着し、目がかっぴらていた。


「ほう、大臣、本気だな」


「ふふふ、昔の血が騒ぎます。王様、早いもの勝ちですぞ!」


 大臣Lv69が迫ってくる。その爪をかわしながら、俺は魂の叫び声をあげた。



「チクショおおお、この異世界はハズレだああああ! バカがよおおお!」

 



 …ふぅ。


 それからのことは思い出したくもねえ。


 王様の闘気を交わし、大臣の爪をかいくぐり、勇者たちの斬撃と聖女の罵詈雑言を跳ね除けて俺は逃げ出していた。


 幸い、奴らの攻撃は俺にかすりもしなかった。


 はぐれメルトの性質に加え、幼い頃から嫌なこと全部逃げてきた俺の人生経験が役に立ったのかもしれない。


「あんた、よく生きて城から出られたねえ」


 声がして、ビクッと俺は振り向く。


 パタパタと浮いている、しぃちゃんだった。


「びっくりさせんなよ、追っ手かと思っただろ」



「マジで逃げ足だけはすげーんだね、私のトラックもかわしたしぃ」


「褒めてんのか、それ。てかお前、飛べたんだな」


 背中の小さい蝙蝠の羽を指差した。


「まあねー。あたし、サキュバスだしね」


「サキュバスだったの!?」


 どうりで大きいと思ったわ。俺の視線に気づいて、開いた胸元を隠した。


「見んなし」


「じゃあ開けてんなし。てか、異世界でもそんな配達員の格好してんの?」


「ああ、確かに」

 


 しぃちゃんはくるりと回ると、その衣装が変化した。てかまんま、JKの制服なんですけど。


 けしからんね。スカート、ちょっと短くないかぁ?


 ギャルピースで決めながら、しぃちゃんが聞いてきた。



「そういや、あんた名前なんてーの?」


 今更かよ。


「ハグリ・カツヒコ」


「ハグリ、カチュピ…か、ちゅ…ああ、言いづらいし! はぐりん! あんたこっからどうすんの?」


 俺は考える。


 どうしよう。


 正体がばれれば、いく先々で命狙われるかもしれないからな。あいつらだって追ってくるかもしれないし…


 …いや、自分で言っててなんだけど、俺の異世界転生、ちょっとひどくない?


「とりあえず人間になりてーわ」


「切実だねー」


「デオーマ神殿ってとこで転職すれば人間になれるっぽいな。場所、わかるか?」


「さあ? なんか聞いたことあるような気がするけど、初めて聞いた気もすんだよね」


「たぶん、それ聞いたことないわ」


「こっから北に行くと村があるしぃ、そこで聞いてみれば? 田舎だから、そこまで行けば追手も来ないんじゃね?」


「ほんとうか?」


「ギャルの勘を信じるし」



「勘かよ。てかやっぱギャルなのかよ」


 ししし。しぃちゃんが笑う。何が面白いのかわかんねえけど。


「まあ、しゃーねーか」



 他に行くあてもないしな。


「しかしあんた、面白いねー。久々に笑ったわあ」


「面白くしたいわけじゃないけどな」


「しゃーねーから村までついてってやるし。感謝すんだな!」


「はいはい」


 ったくノリだけで転生させやがってこのバカギャルがよぉ!


 とか思いつつも、一緒にいるのは悪い気はしない。異世界に一人って心細すぎだし、性格はあれだけど胸でかいしね。


 どこからかホロホロと異世界鳥のなく声がする。


 おっきな満月の下、ゲル状の何かとサキュバスが北を目指していくのだった。





 さぁて、俺は無事にデオーマ神殿で人間に戻れるのか。


 いかれた異世界だけど、せめて最初の村で、可愛い『むらむすめ』でもいればいいなあ。






◇◇◇◇◇


ここまでが導入になります。読んでいただき、ありがとうございます!


次回から冒頭のヒロインが出てきて、さらにはちゃめちゃになっていきます。


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