第4話 どっちがいい
朝から口づけをしたことで、ルミリの調子はよかった。
シルエッタが体内に宿している魔力量はルミリの想定を遥かに上回るもので――彼女からすれば不服だろうが、ルミリにとってはありがたい存在だ。
「そう言えば、エルフって好きな食べ物とかあるの?」
「……」
ソファに腰掛けたままの彼女に問いかけたが、返事はない。
やはり、先ほどのキスで機嫌を損ねてしまっただろうか。
「昨日も結局何も食べてないじゃない? さすがにお腹減ったでしょう」
「……別に、問題ありません。私は小食なので」
そういう問題なのだろうか――とはいえ、食事は魔力回復を促進させるものだ。
彼女から魔力をもらう以上、余裕があったとしても、食事はきちんと摂ってもらう方がいいだろう。
「じゃあ――私とキスするのと食事、どっちがいい? 好きな方を選ばせてあげる」
「……っ」
シルエッタは嫌そうな表情を浮かべながら、悩んだ末に観念するように答える。
「……分かりました、食事をいただきます」
「よろしい」
彼女からすれば、下手に抵抗して口づけをされるよりはずっといい、という感じなのだろう。
「まあ、好物は聞いたけれど――基本的にはこの近くの森で取れる食材しかないから」
ルミリはそう言って、シルエッタを食卓へと招く。
――そこに並んでいたのは、山菜サラダや卵料理といったもの。
シルエッタは怪訝そうな表情を浮かべる。
「……いつの間に用意を?」
彼女の疑問はもっともだろう。
何せ、先ほどルミリは起きたばかり。
その上、シルエッタと口づけをしていたわけで――けれど、目の前には出来立ての料理が並んでいるのだ。
「私は魔術師だもの。大体のことは魔術で解決するわ」
パチンッ、と指で音を鳴らすと、奥の部屋から何かがやってくる。
「他に人が……?」
姿を見せたのは、メイド姿をした女性――だが、よく見ると彼女は人の姿をしているが、人ではない。
「『魔導人形』よ。食材の調達から調理まで――色々こなしてくれる便利な子なの」
ルミリは基本的に、食事に限らず家事全般は全てこの『魔導人形』に任せている。
そうすることで、工房に引きこもるような生活を可能としているわけだ。
「動力源は魔石だから、この子に関しては魔力を使わなくて済んでいるってわけ。さ、食べましょう」
『魔導人形』は頭を下げて、静かに部屋の奥へと戻っていく。
シルエッタはぺこりと反射的に頭を下げていて、その姿を見せて思わずくすりと笑ってしまう。
「何かおかしなことでも……?」
「いえ、ただ――私の作った『魔導人形』は意思を持たないの。それでも頭を下げるものだから、随分と礼儀正しいと思って」
「……下げられたから、返したまでです」
「いいじゃない。礼儀正しい子は好きよ」
「……」
ルミリの言葉を無視して、シルエッタは食事を始めた。
どうあれ――二人の一日もまた、こうして始まったのだ。
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