第3話

「いってきます」


「いってらっしゃい」


 つきゆんは、いつもと変わらずにソファーでごろごろしている。


 つきゆんのことを、つきゆんの旦那が探している。それが分かっているので、つきゆんは家でおとなしくしている。


 とはいえ私までおとなしく過ごしているわけにはいかない。むしろつきゆんが引きこもっている分、私が外に出るべきなのだ。


「すみません、今日はどこへ行きますか?」


 つきゆんの夫とつながりがあるらしい、派手髪の人が話しかけてきた。


「今日は買い物へきたんです」


「どこへ行きますか?」


「えっと本屋です」


 適当なことを話して、なんとかまこうとする。


 でも派手髪の人をまくことができず、結果的になぜか一緒に行動することとなってしまう。


「私は結婚しているわけじゃないから、他の人のところへ行けばどうでしょうか?」


「いいじゃないですか。僕は田畑白雨たばたはくうです。近くの地域コミュニティFMで、パーソナリティをやっている有名人」


「パーソナリティさんとはすごいです」


 ラジオのパーソナリティさんって、ほぼ芸能人みたいだと思う。そこでこの人、田畑さんはすごい人みたい。


「そうです、すごい人です。だから僕と一緒にいれるあならは幸せですよ」


「そうですかね?」


 それはよく分からない。


 でもこうやって話して、名前を知る。この大したことじゃないことでも、田畑さんのことを私は好きになってしまったかもしれない。


「そうですよ」


 田畑さんは自信満々に、にっこりと笑う。


 だからその笑顔が反則なんだって、もう。

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