10話 文化祭準備
文化祭まであと一週間を切っていた。
そろそろ校内も本格的に文化祭一色になっていく。
うちの学校は部活が多いため、クラスの出し物よりも部活の出し物の方を優先することが多い。特に二年生は部長の人が多いので、特に気合いを入れていた。
ちなみにクラスの出し物はわたあめ屋だ。道具が揃えば簡単に提供出来るため、前準備も時間がかからない。
授業時間の範囲内で終わるくらいには時間に余裕もあり、放課後に残ることもなかった。
スムーズに手続きやら道具も揃えてくれた友希乃のおかげでもある。
後で聞いたのだけど、友希乃は文化祭実行委員ではないらしい。あくまで手伝いというのにあの仕事ぶりだ。
私はやることもないので帰宅しようと準備する。
廊下を出ると友希乃がクラスメイトと会話をしていた。
「友希乃、ごめんね……こっちも忙しくて」
「ううん、気にしないで」
そこで会話が終わったようで、クラスメイトの子は去っていく。
一方、友希乃はその場で立ち尽くし、困ったような顔をしていた。
「ゆ、友希乃どうしたの?」
名前で呼んでほしいと言われても、慣れないもので呼ぶ度に緊張していた。
ちなみにこれで三回目だ。本人を前にしないのなら何百日は口に出している……そんなことは彼女の前で言えないので心に秘めておくけれど。
「それが……人手が足りなくて」
「もし良かったら手伝うよ」
「ほんと?」
友希乃の表情がぱぁと明るくなる。その表情を見れただけで、手伝いを申し出て良かったと思う。
「あともう一人いると助かるんだけど……」
そう言って友希乃が私の後ろに視線を向ける。
振り返った先に水島さんがいた。こちらのクラスに用があったようで来ていたようだ。
「……なに?」
私達に気づいた水島さんは眉間に皺を寄せ、仏頂面をする。明らかに近づくなオーラを出していた。
友希乃はそんな水島さんの態度を気にすることなく答えた。
「文化祭の準備手伝って欲しいなーって」
「嫌――」
「水島さん部活入ってなかったよね?」
「え、そりゃ部活は入ってな――」
「じゃあお願いしていい?」
友希乃は笑顔でそういうと、水島さんを半ば強引に引き込むように教室に入れる。
水島さんの方が押され、何も言えなくなっていた。
友希乃が強引に押し切るなんて珍しいなぁと思う。いつもなら相手の言葉を遮ったりはしない。
話しながら"相手が手伝いたくなるような"会話の流れに持っていく。そう、自然に。
だけどさっきのはあまりにも強引だった。それだけ切羽詰まっているのだろうか。
最近友希乃のことをよく見るようになって、少しだけ気づいたことがある。
彼女は立ち回りが上手い。特に人間関係に関しては上手すぎるくらいだ。関わりのなかったはずの私のことも見ていたのだから、当然ながら人の事をよく見ている。
水島さんは諦めたようにため息を吐いていた。
「なんであたしまで……」
そう言いつつも逃げ出さないあたり、手伝ってくれる気はあるのだろう。
「水島さんありがとう」
「別に……」
友希乃がお礼を言うと、水島さんは仏頂面で答えた。
「で、なにやればいいの?」
水島さんの問に答えるように友希乃はチラリと教卓の上に置かれた紙の山を見る。そして私達にホチキスを手渡した。
「文化祭のパンフレットを作ってもらいたいの。全校生徒分あるから枚数が多くて……」
そこにあったのは紙の山だった。
一体何ページあるのだろうか。ページ事に仕分けされてはいるようで束ごとに縦横交互に置かれていた。
「え、マジで? もう一週間切ってるのにパンフできてないの?」
水島さんが驚くのも無理はない。私も驚いている。パンフレットならもう配られていておかしくない時期なのに。
「それが今年は部活からの出し物が多くて、色々揉めてて……昨日ようやくスケジュールや場所が正式決定したんだよね……」
友希乃は困った顔をしながら、机を横に並べ紙束を並べていく。話している間も手を動かしている辺り、やはり有能だ。
「そういえば水島さんはどうしてうちのクラスにいたの?」
うちのクラスに来たせいで手伝いをさせられてる水島さんは苦虫を噛み潰したような顔をして答えた。
「白石に教科書借りてたの。返しにきただけだったのに……」
確か先々週も借りてたような……。水島さんって忘れ物多すぎでは?
「美穂もありがとね。本当に助かるよ!」
「暇だったから、大丈夫」
友希乃は私と水島さんに交互に話題をふり、会話をしていく。メンツ的に会話が盛り上がる感じはしないのに、友希乃のおかげで会話が出来ていた。
十五分ほど作業をしたところで、慌てて教室に入ってくる女子生徒。
彼女は確か本物の実行委員だったはず。
「友希乃ー!! ごめん、ちょっとこっち手伝ってくれない!?」
「ごめん、二人とも。呼ばれちゃったから行くね。ある程度やったら帰ってもいいから、後よろしくね」
友希乃の後ろ姿を見送る。さっきまで友希乃が会話を振っていたから会話が出来ていた。
しかし私はそういうの不得意だし、特に話すことはないので二人で黙々と作業をしていく。
カチカチというホチキスの音だけが教室に響いた。
そして静寂は唐突に破られる。
「あんた沢村 友希乃のことが好きなんでしょ」
「へぁっ!?」
驚きのあまり思わず手を止める。
水島さんの顔を見ると呆れたような顔をしていた。
「分かりやすすぎ。あんた隠すつもりないでしょ」
そんなに分かりやすかっただろうか。
友希乃本人にもバレていたことに気づき、否定は出来ずに押し黙る。
私が作業を再開すると同時に、水島さんは言葉を続ける。
「上手くいってるの?」
「……分からない」
「ふーん」
聞いてきたわりに素っ気ない返事だった。
そこで話は終わりだと思っていたので、私は黙って作業する。
「……なんか話しなさいよ」
「え、なんで?」
「無言で作業って気まずいでしょ」
私は無言の空気は気にならないけど、水島さんは無言が気になるタイプのようだ。
さっきの話題は気まずくはないのだろうか。ほぼ初対面でするような話題じゃないよね?
でもそう考えると水島さんは恋愛話が好きなのかもしれない。
「えーと……水島さんは恋人いるの?」
「なにその話題」
水島さんは明らかに不機嫌そうな顔をしていた。どうやら話題選びに失敗したようだ。
「いや水島さんが先に恋愛話しようとしてたし、恋愛話好きなのかなって」
「そ、それは共通の話題が沢村のことしかなかったからだけど」
「水島さんは友希乃のこと知ってるの?」
ああ、まただ。またモヤッとした感情が湧き出てくる。
水島さんは友希乃のことを私よりも知っているのだろうか。
「あ〜、沢村とは特に近づきたくなかったんだよね……まあ今は大丈夫そうだから」
しかし水島さんの言葉は答えになってなかった。最後の方はまるで独り言のように小さく消えていく。
「どういう意味?」
「って、あたしのことはいーの。それよりあんたはなんで沢村のことが好きなの?」
「なんでって」
同じことを友希乃にも問われた。
結局、私はその答えを言えないままだ。だって、ない答えは言いようもないのだから。
言葉に詰まっていると、水島さんは私から目線を逸らした。
「ま、どうでもいいけど」
そこからはお互いに黙って作業をする。
急にピタリと手を止めると、水島さんは思い出したかのように口を開く。
「……ねぇ、沢村友希乃のこといつから好きなの?」
「えっと、二週間前……くらいかな?」
「あんたって……」
しかしその先の言葉は続かない。
「やっぱなんでもない」
そう言って、水島さんは不機嫌そうな顔をするだけだった。
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