第八章 最強おじさんと因業の魔王
8-1
アキトとレミ、二人の姿が宝蔵門の先へと消えていく。
それを見届けたロズは
イギリスとロシアの混成部隊は連携しつつ、影付きの
前衛は片手で扱える得物と盾を手に
それでも数の差には抗い難く、少しずつ押されていた。
「よく支えてくれました! 負傷者はっ⁉」
すると後方にいた数名が、苦し紛れの笑みを浮かべた。
皆、先ほどアキトに激励を送った者たちだ。
「我が姫、お手数をおかけしますが……っ」
見れば腹のあたりを薙がれたか、戦闘服の上から血が滲んでいた。
他の者も、腕や足に深手を受けている。
「あなた、その傷であんなこと言ったのっ……⁉
左手をかざすと、男の胸元に光の羽が生まれた。
かと思うと、すぐさま砕け散る。白い羽毛が男の傷口に集まり、血が止まった。
傷を徐々に回復させるこの魔法の、もうひとつの効果である。
付与された者が致命傷を負うと、羽がすべての力を開放して砕けるのだ。
「ありがとうございます……。あのくらい言わないと、ファンとして格好がつきませんから」
「たしかに、力じゃ勝てないからなあ……!」
イギリスの
ロズは苦笑しながら、全員に光の羽を施していく。幸い、命を落とす者はいなかった。
「……仲間たちの手当、感謝する」
カーチャが、笑みを浮かべながら隣に立った。
かざした左手とともに氷の鎖が生まれ、大柄な
「だが、ここから先は競争といこうじゃないか」
「あら。それはなんの挑戦かしら?」
笑いながら、
旗の効果範囲に入った
「さてな。もっともここで勝ったとしても、手強い
「ふふっ。でもここで一人、相手を負かせるなら悪くありませんわ」
ふたたび
影を背負う魔性たちの向こうから、大きな影がゆらりと現れた。先ほどの
「もちろんアキトがああ言った以上、
「言われるまでもありませんわ。では……参りますっ!」
地を蹴って、“神像”の眼前に飛ぶ。
「
煌めく螺旋を刻む円月の軌跡が、“神像”の黒い身体を斬り裂いた。
◆ ◆ ◆ ◆
陽人たちが宝蔵門を潜ると、晴れ渡った空の下に出た。
誰もいない、浅草寺の本堂前。がらんとした広場は、寺の職員以外はまず見たことがないだろう。
「なんで……? 今は真夜中のはずなのに……」
〈え、いきなり晴れた?〉
〈別の場所にワープしたのかね〉
〈でもあれ本堂だぞ〉
〈ほな浅草寺かあ〉
〈本堂の前に誰かいるね〉
コメント欄の通り、香炉の前には人影がひとつ。
真っ黒な髪と、同じ色の服装。背を向けていて顔は分からないが、間違いなく天久優吾だ。
ゆっくりと歩を進める。辺りからミツハと呼ばれた少女の奇襲がないかと警戒していたが、そんな気配もない。
少し距離を置いて立ち止まると、優吾が唐突に振り向いた。
「まだだ。もう少し先だ……」
言われるまま、無言で歩いた。
何を意味しているか、どこを示しているのかは分かっている。
思い当たる場所まで到達すると、優吾が指を指してきた。
「……そう。その位置だ」
優吾が空いた自身の左手を、ゆらりと胸に当てる。
「覚えているか?」
「……ああ」
「あの時、お前がいた場所。俺はちょうど、この位置にいた」
「恨むなら、俺だけを恨め。他のヤツらまで巻き込むんじゃねえ」
前に出て、優吾を睨みつける。
しかし優吾は、玲美の傍らに浮かぶシャトに視線を移した。
「そういう貴様は何故、未だに姿の見えぬ取り巻きどもを連れている? 上っ面で詫びて赦しを乞うたところで、貴様の罪は消えん」
「その通りだ。自分のやっちまったことが帳消しになるなんて思ってねえ」
虚ろな目で見つめてくる優吾を前に、ため息をつく。
「だがあんな事があったって、前向いて踏ん張ってる奴らだっている。恨み受けながらでもそいつらを守るのが、本当の贖罪になる」
一歩、前に出る。
あの時、倒れて動けなかった場所から。
「そのために……お前を、止めに来た」
優吾の顔が、わずかに歪む。
その時。玲美が、すっと横に出てきた。
「わたしも
言いながら、ホログラムの中に流れるコメントのいくつかを拡大する。
「親を亡くしても、頑張ってる子たちだっている……。みんなの想いを踏みにじるような真似は、もうやめてくださいっ!」
〈あなた方の気持ちは分かる。私も同じだからね。でも、人に迷惑かけていいなんてことにはならないよ〉
〈俺の親も元旦の朝に仕事行ったきり帰ってこねえ。でも折れずに生きて、所帯持つまでになった〉
〈頼むから被災者の株が下がることやめてくんねえかな。はっきり言って迷惑してんだわ〉
〈全部受け入れて前に進もうとしてるヤツの邪魔するなよ、みっともねえな〉
いくつかのコメントが、中空に映し出された時。
「……黙れ黙れ黙れ、黙れええっ!!」
優吾が叫ぶ。
その顔には、怒気と狂気を同居させた表情が浮かんでいる。
「あの時から、オレの時は止まった! 家にも学校にも居場所のないオレをっ! 遥だけは……受け入れてくれたんだっ!」
身振りにも口調にも、動画で見た演説の面影はまったくない。
今の優吾から受ける印象は、酔ってくだを巻く飲んだくれか、さもなくば心にヒビが入った病人だ。
〈あんたのやってること、その遥さんへの侮辱だよね〉
〈ほんそれ。名前出された挙句、言い訳のネタにされてすげーかわいそう〉
〈なにがあったか知らないけど、
〈それで絶望してテロ組織作って八つ当たり? 巻き込まれる奴らのことは無視かよ〉
「今でも遥が……オレの中で語りかけてくるっ! 辛い、苦しい、お前を討てとっ!」
〈幻聴乙〉
〈そんないい子が、見知らぬ人の不幸を願うはずねえだろ〉
〈てかそれとテロかますことと、どういう関係が?〉
〈あんたに必要なのは人を傷つけることじゃないと思うんだ〉
「黙れ黙れ黙れええっ!! そいつを殺さなければっ! オレは……前に、進めないんだよおっ!」
優吾の叫びとともに、青空が砕け散った。その向こうから現れた灰色の空が、にわかに暗くなる。
周囲の建物が、火のごとき赤い気を放った。そのまま広がり、本堂の提灯を真っ赤に染める。
暗闇の中から、ミツハが染み出るように姿を現した。
どろりとした毒の液を手に生んだかと思うと、引き伸ばして巨大な鎌へと変える。
「君もそこの彼と、同じクチかい?」
『私を助けてくれたのは、優吾……。優吾が望むことを、私も望む……!』
電子音声とともに、ミツハが鎌を振り回す。
同時。優吾の周りに、影で作られた無数の刃物が現れた。
柄を持つ剣から鋭利な刃だけのものまで、形状は様々だ。
「さあ、来いっ! 遥の恨みを晴らすため……貴様に真の空白を与えてやるっ!」
狂乱した表情の優吾と、冷徹な殺意を浮かべるミツハ。
その二人を前に、陽人はゆらりと長巻を構えた。
*――*――*――*――*――*
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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