第5話 国家権力

 ニヤニヤしながら星那に近づいてくる男。

 そしてそいつは俺を見て下から上まで、舐め回すように見てくる。

 制服からして竜胆りんどう学園の生徒だな。

 

 竜胆学園とは、この辺りで悪とバカばかりが集まると言われている高校で、こいつは恐らくバカの方だろうと察する。


「お前、誰?」

「誰って言われてもなぁ。偶然・・そこで会ったんだよ、川島とは」

「どういう関係?」

「同級生ってだけだ」


 たまたま会ったという体にしておこう。

 多分だけど、星那と知り合いってことは根鳥の友達だろうし、トラブルに巻き込まれたら面倒だしな。


「同級生如きが根鳥の彼女と話してんじゃねえよ」

「あーやっぱり知り合いなんだ」

「はぁ?」

「ごめんごめん。俺はもう行くから」

「私も同じ方角だから」

「え、おい」


 俺がその場を立ち去ろうとすると、星那も同じようについて来る。

 一緒のゲームをするんだから当然だろうな。

 だが男は俺の腕を掴み、逃走を阻止してきた。


「話はまだ終わってないの」

「はぁ」

「で、どうすんの? 根鳥に話しちゃうよぉ」

「えー、それは止めてほしいんだけど」

「じゃあ分かるよな、なぁ?」


 男は親指と人差し指で丸の形を作る。

 金を要求しているのだろうが、こちらは払う気など毛頭ない。

 しかしどうやってこの状況から逃げようかな。

 俺は目を閉じて思案を始めた。


「おい、無視すんなよ!」

「ああ、悪い悪い」

「ねえ、これ以上絡んでくるなら私が根鳥に言うよ。今村がしつこいって」

「それは……」


 パワーバランスは根鳥の方が上らしく、星那の言葉にたじろんでいる。

 やっぱりバカの方だったんだな。

 悪い方だったら間違いなく喧嘩に発展していたところだ。


「いいの?」

「わ、分かったよ。もう行け」


 今村と呼ばれた男は星那と俺を見送る。

 だが奴は俺の顔を見て厭らしい顔を浮かべていた。

 ああ、トラブルの予感。

 俺は平和にゲームをしていたいだけなのに。


「ごめん、変なことに巻き込んで。でももう大丈夫だと思うから」

「ならいいんだけどね」


 俺は駅の方角へと向かいながら、星那と話す。


「今日は解散した方がいいかも」

「なんで?」

「うん。なんとなくだけど」

「その理由は?」

「さっきのやつ、これで終わると思う?」

「終わりじゃないの?」


 星那は完全に終わったと思っているようだが、あの笑いはこれで終わらせない、そんな顔をしていた。


「星那は大丈夫だろうけど、俺への巻き込みはまだ終わってないと思う」

「そんな……どうしたらいいかな」

「どうしようもないだろ。星那が騒いだら根鳥に話しが行く。そうなったら俺は確実に絡まれるだろうな」

「…………」


 面倒な立場にいるのは星那も同じか。

 むしろ俺よりも大変な立ち位置だ。


「ま、今回の件は俺がどうにかするよ。星那は安心して帰ってくれ」

「どうにかって……どうするの?」

「そうだな、運に任せるか」


 俺が言ったことに焦る星那。

 流石に運任せなんて言っても納得しないか。


「大丈夫大丈夫。実はとある人に頼ろうと思ってるんだ」

「友達……いたの!?」

「そこに一番驚く!? 友人じゃなないけど、頼りになる人だから」

「…………」

「明日学校休みだし、どこかに出かけよう。根鳥にもああいう連中にも出くわさない場所で遊ぼう。な?」

「何かあったらすぐに言ってよ」

「分かったよ。じゃあ」


 駅の方に星那を向かわせ、俺は彼女とは別の方角へと進んで行く。

 まさか今日の今日で襲ってくるようなことは無いと思うけど――


「いた、あいつだ!」

「げっ」


 声に振り向くと、さきほどの今村という男が四人ほどの仲間を引き連れて俺を追いかけて来ていた。

 やっぱり面倒事に巻き込まるんだな。

 俺は嘆息しながら、歩く速度を速める。


「待て! 殺すぞ」

「…………」

「待てって言ってるだろ!」

「…………」

「ま、待て……待てよ……」


 竜胆学園のやつばかりらしいが、普段から運動をしていないのだろう、すでに息切れを起こして汗だくになっている。

 必死な顔で追いかけて来る連中の顔を見て、俺は吹き出しそうになっていた。

 普段素行が悪くても、あれじゃ恰好つかないよな。


「ぜぇぜぇ……待てって」


 追いつかれないように、だが引き離さない距離感で俺は走り続ける。

 そして俺はとうとう足を止め、男たちが追い付くのを待った。

 男たちは俺が止まったのを確認し、今にも殺しそうな表情で迫って来る。


「バカにしやがって!」

「すいませーん。助けてください」

「はぁ?」


 俺はとある場所に向かって声をかける。

 不良の連中は声をかけた人物を見て、顔を青くしていた。


「どうしたの?」

「この人たちに脅されていてですね、困ってるんです」

「へー、どういうこと?」

「あ、いやぁ……」


 俺が駆け込んだのは交番。

 警察官が三名ほど在中しているところだ。

 不良といっても、国家権力の前では無力も当然。

 俺に手出しできないところか、捕まる可能性まで出てきて焦っているようだ。

 

「詳しく話を聞かせてもらおうか」

「殺すぞ、って脅されていて」

「いや、違うんです! 言葉の綾というか、何というか……」

「じゃあ殺すって本当に言ったんだね」

「い、言いましたけど……でも」

「僕、怖かったです。本当に殺されると思って、1キロぐらい逃げてようやくここまで来たんです」


 今村は完全に委縮してしまい、他の男たちは怒りこちらを睨み付けている。

 警察官は事情聴取をするらしく、交番の中に入るよう促される俺たち。

 俺は警官がこちらから視線を外したのを見計らい、今村に言う。


「俺のことは狙わない方がいいぞ。こうやって警察に通報するからな」

「ひ、卑怯だぞ」

「どっちだがよ。一人を数人で囲む方が卑怯だろ。俺と川島も無関係だし、これ以上付きまとうな。分かったか? 分からないならそれなりの報復方法も考えている」

「ほ、報復ってなんだよ……」


 俺が言ったことに、今村は完全に警戒している様子。

 俺は心の中で笑いながら、続きを話した。


「これまでのお前の悪事、とある伝手から手に入れることができる。学校を退学したくないなら……」

「わ、分かった。もう付きまとわない。約束する」

「後、根鳥にも今回のことを話しするな。話した場合も同じ結末が待っていると思えよ」

「分かったよ」


 ちょっとした脅しだったが、まさかここまでてきめんとは。

 バカな子かなと思っていたけど、上手くいったみたいで良かった。

 俺は笑顔を浮かべていたが、すぐに傷ついた少年の顔をして交番に入る。

 事情聴取は被害者面を崩さないように受けないとな。

 俺は演技をするかのように、警察官たちとのやりとりを開始した。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 午後から星那と会う約束をしており、二人の生活圏内から離れた場所で会うことになっていた。

 天気は良いし清々しい気分。

 俺は駅前で星那が来るのを待っていた。


「裕次郎」


 俺の姿を見つけた星那が走ってやって来る。

 肩の出ている服に短いパンツ。

 足元はヒールとまさにギャルらしい恰好。

 黒い手袋がまた、奇跡的にマッチしていて美しい。

 

「可愛いな、あの子」

「可愛いよりも美人じゃね?」

「もしかしてモデル?」


 星那に見惚れる男が多数。

 駅前では男たちが足を止めて、彼女に視線を注いでいた。


「あれからどうなったの? 襲われたりした?」

「ん? 無事に解決したよ」

「そうなんだ……良かった」


 星那はホッとため息をつく。

 本気で心配してくれていたようだ。


「裕次郎の知り合いが解決してくれたの?」

「ああ。本当に頼りになる・・・・・人でさ。何かあったら助けてくれる正義の味方だ」

「そんな人もいるんだね」

「まぁ人によるんだろうけど。今回は大当たりだったな」

「ん? どういうこと?」

「そんなことより、今日はどこに行くんだ。ゲームじゃないみたいだけど」


 星那が微笑を浮かべて歩き出す。


「あっち。一度行ってみたかったところがあるんだ」


 手招きをする星那。

 今日は一日時間があるから彼女の行きたい場所に行くといしよう。

 俺も俺で、何故か星那と行動するのがワクワクしていた。

 どんなところに行くんだろうか、楽しみだな。

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