第三話『紐無しバンジー』


 ・・・


 胸まで掛かった布団を押しのけ、身体を起こす。


 俺、死んで・・・


 カビ臭いエアコンの風に、山のように溜まったティッシュ。

 机の上には、書き溜めた原稿が散乱している。

 よく見慣れた、俺の部屋だ。


 「夢...だったのか?」


 そうだよな。

 俺が異世界転生なんて出来るわけ...


 「わあ──!ここ、どこですか!?」


 耳が痛いほどに高い声で喚くそいつは、俺の裾を掴み涙目でこちらを見上げる。


 「なんでお前が居るんだよ...!」


 「なんでって...当たり前じゃないですか!代理魔女なんですから!」


 えっと、要するにあれは夢では無かったという事か。

 でも、だとしたら俺は何故ここに居るんだ?

 それに、ダークウルフに噛み千切られたはずの四肢も、見ての通り健在だ。


 「ここどこなんですか!」


 「どこって...俺の部屋だよ」


 「ええっ!?」


 もう隠しようが無い。そう思った俺は、これまでの経緯を洗いざらい全て話した。

 正直、自分でも信じられないような体験だ。驚かせてしまうだろう。


 「転生...ですか。そんな事が本当に出来るだなんて...」


 「確かに良く分からないが、俺は確かに転生した。

  俺達が今いるこの世界から、さっきまでいたあの世界にな」


 まったく...なんなんだ?

 せっかく転生出来たのに、現世に逆戻りだなんて最悪だ。

 くっそ・・・戻りたい。


 「てか、俺はあの時なんで倒れたんだ?対して身体も動かしてないのに」


 「あっ...それが...」


 どこか苦しそうな表情を浮かべながらも、彼女は話を続けた。


 「私たち、代理魔女が使ってるのはあくまで契約者のマナです。

  だから...代理魔女がマナを消費しすぎると、契約者のマナが尽きるんです...」


 「なるほどな...って、お前のせいじゃねーか!!」


 こいつ、契約者である俺のキャパシティも考慮せずに馬鹿すか魔法を放ってたのか。

 五回も契約を切られた理由...なんとなくわかったぞ。


 「ごめんなさい...!私、マナの調整が苦手で...それで今までも契約切られちゃって...」


 「まあ良いよ...。君が居なければギルドに行く事も無かっただろうし。それに、俺は現に生きてるからな」


 思う所が無いと言えば嘘になるが、こいつに恩が無いわけでもない。

 そこは素直に感謝するべきだと思う。


 「そういえばお前、名前は?」


 「あっ、リュナです。代理魔女のリュナ...」


 「俺はユウリ。カオルヤ・ユウリだ。これからもよろしくな」


 「はいっ!」


 そんな馴れ初めを交わし、俺達は異世界に戻る方法の議論を始めた。



 ■ ■ ■ ■ ■



 「まず、ユウリ様が最初に世界を渡ったのは、死が原因なんですよね?」


 「ああ、多分そうだ。腹を刺されて、気付けばあの街に居た」


 その言葉を聞くと、リュナは腕を組み思考を巡らせる。


 「そして、今この世界に来た原因も死ですよね」


 「ああ、そうだ」

 

 少し考えると、リュナは何か思いついたのかパッと顔を上げた。


 「それなら、もう一回死ねば戻れるんじゃないですか?」


 「確かに、それは一理あるが...死ぬって言ってもな...」


 俺はこの人生で、二回死を経験した。

 死の瞬間の寒気や恐怖も、未だ鮮明に記憶している。

 死というのは、そう気軽にするもんじゃない。

 

 でも、駄目だ。

 このまま終わらせたら俺は変われない。


 俺はガラスの窓を開け、ベランダへと出た。

 マンション7階の空気は冷たく、俺の喉を強く突いた。

 下を眺める俺の前髪を、鋭い北風がそっとさらう。


 ── 怖い・・・


 「それえっ!」


 「えっ...ちょっ、まっ!」


 リュナが俺を突き落とした。

 高速で落ちる俺の身体を、鋭い風がすり抜ける。


 次の瞬間───俺は三度目の死を迎えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る